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藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」

コンサルタントとしての豊富な経験をもとに、ITビジネスの最先端の動向を、根本から捉え直す。

第14回 プラットフォーム企業としてのグーグル(2)

2007年12月 3日

(これまでの藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」はこちら

今回は前回の続きなので、こちらの図表を参照いただきたい。

■C)コンテンツプラットフォーム

検索エンジンとしてのグーグルのひとつの特徴はキャッシュを保持することだった。すでに消えてしまったようなサイトでもキャッシュを見ることで検索結果がわかるということは画期的で、それはHTMLに限らずpdfファイルをも対象にしており、世界中のWebの情報を全て集めてデータベース化し、ページランクという指標で整理し直すいう作業はグーグル自身がインターネットそのものを自分たちで飲み込み、一部分を自分自身のコンテンツ化しているとも言えるだろう。これを実現するためには爆発的に増殖するWebを集めまくることが必要であり、これを可能にしているのが前回のA)にあたるインフラである。

グーグルのビジネスは、広告の表示できる場所と回数が多ければ多いほど売上があがる仕組みなっているので、無償で利用者が利用できるコンテンツを増やすという手段に出ていくことはわかりやすい。ただし普通のバナーのように多くの人に見せることよりも、そのコンテンツを探して見ている人の意図にマッチしているかどうかが重要なため、それを反映させやすいコンテンツであることも必要な要素になる。

地図データはインパクトが大きかった。これまで有償でなければ利用が難しかった地図データを市街地図から衛星写真まで利用可能にし、検索結果画面とは異なるもうひとつの重要なインターフェイスを握ることになった。最近ではテレビ番組でもグーグルの地図を利用しているものが目立つ。このグーグルマップはAPIを開放し、他のWebサイトでも利用可能にしたことでますますその流通範囲は拡大することとなる。月のデータまで流通可能にしたのはビジネス戦略というよりはご愛敬だが、これも人材採用戦略的にも企業カルチャーを伝える上では効果があるのだろう。

さらに大学図書館などと連携し、著作権が切れた書籍のデータのアーカイブ化も進めている。現在の知識はかなりの部分がWeb上に現れているかもしれないが、過去の知識は本の中に閉じこめられているので、それをデジタル化しネット上に開放しようという作業である。古い本を傷めずに効率的にスキャンし、デジタル化するためにグーグルは独自のスキャンニング装置まで開発したそうである(ただ現実は結構人手を使っているそうであるが)。日本でも慶応大学などと共同で進めているようである。もちろん大学の論文などもコンテンツ化を進めている。少し思惑がずれたものもある。グーグル自身が自らサービスとして始めて集めていた動画データに関してはYouTubeを買収することで手に入れることになった。

ポイントとしてはこうしたコンテンツを無償で流通させることで、ネット上での情報流通量を極大化しようとしているということにある。つまり著作権という自由な流通を妨げる制度の外にあるコンテンツで、かつ人々にとってニーズがあるコンテンツを片っ端からかき集め、流通可能にしていると言える。現在の広告モデルでは流通量が増えれば増えるほど、広告在庫が増えることになるため、グーグルにとっては流通可能なコンテンツを増大させることが売上を増やすためにも重要になると言えるだろう。

ただし同じコンテンツでも流通不可能な少しナーバスなデータも扱っている。Gmailに代表される個人のデータもグーグルが集めているコンテンツの一部である。個人のメールはとても利用頻度が高く、重要なコンテンツであり、その横に広告スペースを構築することはビジネスとしてはとても正しいのだろう。無償で一人あたり5.4G近いスペース(毎日増えている!)を今のところ無期限でサービスしているのも凄いことだ。グーグルが永遠に成長し発展してもらわないと困るユーザーを毎日大量に生み出している状態とも言えるだろう。

■D)アプリケーションプラットフォーム

アプリケーションのプラットフォームについてはOSに依存しないWebブラウザという一段下位のプラットフォームの上で多くを構築しており、アプリケーション側の制約でコンテンツの流通に制約をかけないというところが基本戦略であると言えるだろう。ただし、(B)のOSのレイヤーで説明した通り、NonPCに拡大していく中ではグーグル自らがOSとブラウザを標準化し、現在のアプリケーションの利用を可能にするという垂直統合的なアプローチも今後は必要になろうとしている。またグーグルアースのようにブラウザを介さない専用アプリケーションにしているケースやiPodやMacだけのWidgetsなどもあり、非ブラウザアプローチも今後は多少増えてくるのだろう。

また無償のアプリケーションを法人や大学などにサービスレベルを高めることで有償で販売しているGoogleAppsやサーバー毎企業に販売するアプライアンスなどはこのアプリケーションプラットフォーム部分を有償で提供するビジネスモデルとして広告モデルと異なる事業ドメインとなっている。

次回は(E)広告マッチングプラットフォームの解説とプラットフォームから見たグーグルの戦略の方向性について推測してみたい。

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プロフィール

D4DR株式会社代表取締役社長。コンサルタント。野村総合研究所で多くの企業のネットビジネス参入の支援コンサルティングを実施。マルチメディアグランプリ、オンラインショッピング大賞などの審査員。経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員。青山学院大学大学院エグゼクティブ MBA 非常勤講師。