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藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」

コンサルタントとしての豊富な経験をもとに、ITビジネスの最先端の動向を、根本から捉え直す。

第18回 あなたの会社は仕事中にはてブを使えますか?──IT鎖国する大企業

2008年2月19日

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■縮こまる大企業

大企業の8割が2ちゃんねるにアクセス制限をしているという調査結果が発表された(→IT media)。mixiも5割以上が制限をしているらしい。確かにこれまでも仕事中に遊ばないようにという理由でネットサーフィンすることを禁止する企業などは多かったが、最近では情報漏洩やコンプライアンスなどの理由で大企業は次々と情報統制に対して強く社内を管理するようになりつつある。

はてブやスラッシュドットなど業務上有用と思われるサイトでさえ2-3割の企業は禁止していると調査結果に出ている。企業が利用するパソコンも勝手にソフトをインストールすることは禁止なところが多く、USBやDVDなどの外部からのデータの入出力自体を禁止するところが増えており、全てネットワークで中央からコントロールし、ローカルのハードディスクは利用しないシンクライアント方式のパソコンに全部切り替えるところも増えており、つい先日も機密漏洩で問題になった防衛庁が全面切り替えを発表した。またパソコンの企業外への持ち出しも禁止するところが増えた。社員が重要な情報の入ったノートパソコンを電車の中に置き忘れるなどは企業にとって大いなるリスクであり、持ち出し可能にしている企業でも相当厳しい制限をつけはじめている。

かつてネットワークの普及は家で仕事ができることで、早めに帰宅できたり、カフェで仕事したり、子供を育てながら働けるなど自由な働き方を進めるテレワークを普及させると言われたが、仕事のデータを社外に持ち出すことにセキュリティ面での不安を感じている大企業ではトーンダウンしている企業も多い。前回の話とも通ずるが、情報流出やコンプライアンス違反について、昨今の社会の反応は過激であり、経営者としては可能な限りリスクを減らす方向に力を入れる気持ちが強くなるのもわかる。しかしこうしたバランスを欠いた状況が企業を過度に守りに入らせているのは決して喜ばしい状況とは言えないだろう。

■ 先を行くコンシューマ向けサービス

そうした一方でコンシューマ向けなどのオープンなサービスは次々とイノベーションが進んでいる。例えばグーグルのメールサービスGmailの容量は無料で6Gbyteであるが、有料で一年間一人6000円払うと25Gbyteの容量に24時間365日のサポートと99.9%保証のSLAがついている。一方私の会社で契約している企業向けサービスはつい先日まで容量100Mbyteが基本で、よく大きいメールが来るとディスクが溢れそうになることがあった。今では多くのフリーメールの方が巨大なストレージを用意しているのである。

またビジネスでメールを使っていると相手先の企業がメールの添付ファイルの大きさを制限しているところも多く、5Mbyteぐらいを越えると送れないので仕方なく、無料の宅ファイル便などオープンなサービスを使うことも多いが、今どき画像データを使えばそれぐらい余裕で越えるのにと思うことも多い。

このようにネットサービスは一般の人が使える無料や低価格のサービスの方が厳しい競争の中にあるためかサービスレベルが高く、ますます便利になっている。無料のskypeやWindows Liveなどのチャットも非常に便利なソフトであるが、大企業では使えないところも多い。一方中小企業やSOHO的なところではそうしたサービスを抵抗感無く使うことも多い。

これまでは大企業が高いコストで専用アプリケーションや端末を開発し、一般の人が利用できないような性能を手に入れることが多かったが、この分野ではあきらかに逆転現象が起きている。もはや携帯電話も専用端末よりもはるかに一般向けの方が性能が高いものを安く入手することができる。まさに専用よりも汎用、クローズよりもオープン、そうしたプラットフォーム型のサービスが先端を進みつつあり、セールスフォースのようなSaaS型のサービスの戦略的活用は企業にとって重要になりつつある。しかし、こうしたサービスは中小企業や限られた部署から利用されていくと予想されている。

大企業は現在のセキュリティとコンプライアンス呪縛の中でやはり専用システムを選ぶだろうと予想されており、これからは身軽な中小企業の方が業務プロセスと経営者の意識さえ変われれば最先端のIT環境を入手できる可能性も高まっていると言えるだろう。

■創発をおこすために

もうひとつプラットフォームの重要性として企業の枠を越えた情報共有の必要性も高まっている。例えばITのエンジニアにとっては社内の情報も大事であるが、同じ言語で開発している世界中の仲間のナレッジはもっと重要であり、はてブ(はてなブックマーク)などは重要な知識共有の場になっている。米国で人材流動化が進む理由のひとつは職業人同士のコミュニティが強く、ひとつの職業を持っていれば別の会社の同じ仕事をすぐできるようなスキルを磨いていることにあると言われているが、日本は相変わらず企業内のOJTや研修に力を入れている。日本の大企業がこのまま縮こまり、横の連携やコミュニケーションを阻む方向で動くことは、人材育成の面でも危険な選択になると思われる。

今企業の競争力で重要なのは創発力であり、新しいアイデアを生み出すために必要な知識の多くは社内にあるのではなく、社外である。恐らく多くの社員が企画書を書くときに社内のイントラネット上の検索エンジンよりもグーグルを利用していることだろう。日本の現在の行き過ぎたコンプライアンスにそろそろ歯止めをかけていかなければ、ITによる競争力をさらに弱める方向に進むことになるだろう。

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プロフィール

D4DR株式会社代表取締役社長。コンサルタント。野村総合研究所で多くの企業のネットビジネス参入の支援コンサルティングを実施。マルチメディアグランプリ、オンラインショッピング大賞などの審査員。経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員。青山学院大学大学院エグゼクティブ MBA 非常勤講師。