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藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」

コンサルタントとしての豊富な経験をもとに、ITビジネスの最先端の動向を、根本から捉え直す。

第12回 携帯市場はウインテル化するのか?グーグル「Android」の持つ意味

2007年11月 9日

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■ウィンテル化する携帯市場

無料携帯の登場かと噂されていたグーグルの携帯ビジネスの戦略の一部がついにベールを脱ぐことになった。Androidと呼ばれるこのオープンプラットフォームには世界中のキャリアと端末メーカー33社がすでに参加を表明しているようである。

携帯電話は高機能化が急激に進む中でソフトウェア開発費の高騰が問題視されてきており、今回の無償による基本ソフトウェアの提供は、通信会社と端末会社にはとりあえず開発コストを抑える方向に働くために渡りに船の側面もあり、まずは実現するなら概ね歓迎という方向である。特に低価格の端末の需要が急激に伸びている新興国などで端末販売を拡大させているサムソンやモトローラなどにとってはこのコンソーシアムへの参加は多いに意義があるのだろう。まずはそうした比較的シンプルな携帯用のOSとしての利用が広がっていくと考えられる。

この現象はある意味インテルとWindowsの登場によるウィンテル化がパソコンを水平分業化させ、あるレイヤーのビジネスに多くの企業が専念できるようになったことで、多様で低コストな周辺機器やアプリケーションが多数登場し、パソコン市場を活性化させたことと同じ状況を作りだすことを期待させる。現在ほとんどのパソコンではWindowsが動くため(今やMacですら!)利用者はそれほど意識することなくパワーポイントやアクセスなどの様々なアプリケーションを使用しているが、現在の携帯電話、特に日本市場では電話会社や端末が異なれば、その上で利用できるサービスには大きな違いがある。

恐らくグーグルが特に我慢できないのはブラウザであろう。グーグルのPC上でのサービスはグーグルアースなどを除けばほとんどがブラウザ上で動作する。PCの世界ではほぼその違いは吸収され同一のサービスを提供できるが、残念ながら携帯の世界ではブラウザの統一化がされていないため通信会社や端末毎の違いを相当意識する必要がある。同一のサービスでも仕様が異なったりしており、携帯でサービスを提供する会社にとっても悩みの種のひとつとなっている。グーグルがOSを握ることでブラウザ規格の統一化がはかれれば、電波方式が異なろうが、電話会社が違おうが、端末が違ってもグーグルのサービスが共通で提供できるため彼らの広告ビジネスが提供できる範囲は一挙に世界中の携帯ユーザーへと拡大する可能性を秘めていると言えるだろう。

■ 対立の構図

パソコンの世界におけるウィンテル化はメーカーの力を衰退させ、利益を生みにくい構造をもたらすという結果をもたらし多くの再編が起きた。同様のことが携帯電話市場で起こることには警戒するメーカーも多いだろう。まだメーカーは端末デザインと複合させる機能による差別化が可能であるが、通信事業者にいたっては「おとなしくIPで繋げてくれればよい」という地位にまで持って行かれかねない。そう考えると当面初期の段階では一部機種の採用に留まるのではないかという見方もできる。

一方面白い現象としてはウィンテル化したパソコンの世界においてソフトからハードまで一環した世界観で垂直統合で作られたMacはシェアを失ってしまったわけであるが、そのアップルが出したiPhoneは同様に統一された世界観を武器にすることでパソコンとは逆に市場での存在感を急速に高める動きもある。まだまだ携帯端末という世界は、イノベーションを生み出すために垂直統合で端末デザインやインターフェイス、アプリケーションをセットで考える要素も重要なのかもしれない。そう考えるとグーグルが自らのブランドの携帯電話を開発するという可能性もまだまだあるのではないだろうか。

今回のコンソーシアムには日本からもドコモとKDDIが参加を表明しているが、とりあえず全方位で手を染める傾向の強い両社もまずは様子見ということだろう。日本においては通信会社と端末メーカーが一緒なって機能を検討するという閉じた経済圏を構築しており、総務省の政策により水平分離が進む中ではますます囲い込んだ利用者をしっかり握ることで課金収入を高めていこうという戦略をとると考えられる。このため一部アプリケーションはAndroidを利用したとしても、顧客価値の部分をグーグルにみすみす手放すとは考えにくい。

またWindowsモバイル搭載のスマートフォン市場が好調なマイクロソフトは逆にウィンテルのような状況を創り出し、OSのシェアとその上のアプリケーションによる収益モデルを狙っていると考えられるため、スマートフォン市場ではグーグルとは真っ向から対立する構図もありうるかも知れない。いずれにしても、最後に選択するのは利用者であり、いつでもどこでも自分にとって最適なデジタルコミュニケーション環境を提供してくれるのは誰か?ということになるだろう。そう考えた時は携帯に限らずグーグル全体のプラットフォーム戦略の一環としてのAndroidとして見る必要も出てくる。次回以降でグーグルのプラットフォーム戦略について考察してみたい。

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プロフィール

D4DR株式会社代表取締役社長。コンサルタント。野村総合研究所で多くの企業のネットビジネス参入の支援コンサルティングを実施。マルチメディアグランプリ、オンラインショッピング大賞などの審査員。経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員。青山学院大学大学院エグゼクティブ MBA 非常勤講師。