このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」

コンサルタントとしての豊富な経験をもとに、ITビジネスの最先端の動向を、根本から捉え直す。

第21回 白熱灯生産中止の衝撃-照明はIT産業になるか

2008年4月22日

(これまでの藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」はこちら

■相次ぐ白熱灯生産中止の流れ

ついに日本でも白熱灯の生産中止の動きが出てきた。経済産業省は2012年までに白熱灯の生産中止を業界に求める要請を出す方針を固めている。一番の理由は地球温暖化対策である。家庭の電力消費量は電器製品の多様化に伴い省エネの流れにも関わらず年々増加をしている。CO2を削減するためには家庭の電力消費の16%を占めている照明器具の電力消費を減らすことがひとつの方法であり、白熱灯と蛍光灯に変えるだけで消費電力はほぼ1/5にすることができる。ちなみに蛍光灯の場合は寿命は10倍ぐらいで値段も10倍ぐらいである。

日本では販売数が白熱灯が約1億3500万個なのに対して電球型蛍光灯は約2400万個であり、この切り替えが進むだけでも約200万トンのCO2の削減効果が出てくる計算になる。そのためすでに世界でも同様の動きが進んでおり、オーストラリア、米国カリフォルニア州、EUの一部の国がすでにこうした方針を出し始めており流れは世界的なものになりつつある。

しかし蛍光灯にも弱点がある。最大の問題は蛍光灯の中には水銀を含むガスが含まれており最終処分をする時にこのガスが放出されてしまうことである。EUは有害物質に対して厳しいRoHS指令という規制を打ち出しており家電製品などに使用することを厳しく制限しているが、この蛍光灯の水銀は特例的に認められており、蛍光灯が増えることはこの体に有害な物質である水銀回収の問題に直面することにもなる。

また、光の特性にも弱点がある。最近は暖色系の蛍光灯の技術開発もめざましいものがあるが、まだまだ一般に普及している蛍光灯は白熱灯の暖かみのある色と異なるため、レストランやバーなどの飲食店などでは白熱灯を利用しているところが圧倒的に多いのが事実である。

■次世代照明としてのLED照明

こうした状況で蛍光灯を越えたさらなる次世代照明に対する注目が集まっている。中でもLEDはすでに実用化段階に来ており利用も進んでいる。最近のクリスマスイルミネーションはどこもLEDを利用しているので目にしている人も多いと思うが、LEDは様々な可能性を秘めている。

現在実用化されているもので比較しても電力消費量は白熱灯の1/7ほどであり、CO2削減効果も蛍光灯よりもさらに大きい。寿命もLED照明は40000時間と蛍光灯の4倍以上であり、5年間近く使い放しにしても交換の必要がない。これだけでもビルなどではメンテナンスコストが大幅に節約できる。またイルミネーションに利用されている大きな理由のひとつが熱を出さないことである。かつてのイルミネーションは電球であったが、電球は熱を出すため、木に巻き付けると木を傷めるという大きな問題があった。LEDは熱や紫外線をほとんど含まないため、食料品を照らす照明としても注目されている。また小型なため色々な形に応用できたり、機具に組み込むことが可能である。

こうした特徴からすでに新幹線N700系のグリーン車の照明などに使われており、信号機は都内では40%はすでにLED化されている。まだコストが高いのが課題であるが、技術開発と量産化により、発効効率もさらに高まり、コストも低下が進んでいる。

■IT化される次世代照明

しかし、大きな特徴と言えるのがLEDは照明のIT化を進めることであろう。色に関して言えば、LEDは調光をデジタルで制御できるため、部屋の色を時間や明るさ、部屋の温度やいる人に合わせて自由自在に変えることも可能である。見ているテレビや聞いている音楽に合わせて部屋の照明の色や明るさを自動的にネットワークを介して調整するサービスなどを展開することが可能になる。

またLEDを大量にはめ込んだ照明全体で文字やイラストを表現することも容易なため、看板などのデジタルサイネージとの相性もよい。さらに注目されている技術は可視光通信である。光を人間が見えない速度で点滅することで通信を行うことができ、照明の下で携帯のカメラを向けるだけでデータを転送することなどが可能になる。さらにLEDと平行して期待されている有機ELもITとの相性がよい。

有機ELは次世代のディスプレイとして期待されているが、発効効率が高いため、そのまま照明としての用途も期待されている。LEDは点光源であるため、従来の白熱灯の置き換えに適しているのに比較し、有機ELは面光源のため蛍光灯の置き換えに期待されている。自由自在な形で作れるため、壁一面を照明にすることや、昼間は絵なのに夜は照明になる壁掛けなど様々な応用可能性を秘めている。LEDに比べて寿命やコスト面でようやく実用化という段階であるが、こちらも大きな可能性を秘めていると言えるだろう。

こうした次世代照明はITとの相性がよいため、例えば電灯線を通信回線にするPLC技術を組み合わせることで、新しいオフィスビルの照明を設置するだけでユビキタスな環境にすることが可能になる。照明と同時にセンサーや無線LAN環境をモジュールで設置することができれば、格段に工事コストも減らすことができるだろう。

国際的に環境問題の高まりの中、日本は蛍光灯の先の次世代照明とITインフラをセットで商品化、サービス化することで、新しい国際競争力を持つ分野に育てることが可能なのではないかと筆者は考えている。ITの世界の人達にも是非こうした新しい視点も考えてみるとよいのではないだろうか。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」

プロフィール

D4DR株式会社代表取締役社長。コンサルタント。野村総合研究所で多くの企業のネットビジネス参入の支援コンサルティングを実施。マルチメディアグランプリ、オンラインショッピング大賞などの審査員。経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員。青山学院大学大学院エグゼクティブ MBA 非常勤講師。