第20回 世界は5つのコンピュータに集約されるのか?-クラウド時代の予言
2008年4月 3日
(これまでの藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」はこちら)
■グレッグ氏の予言
2006年の11月にサン・マイクロシステムズのCTOのグレッグ・パパドポラスがブログで行った予言が再び注目されている。
エントリーの内容は世界のコンピュータは分散化されたグリッドコンピューティングによるクラウド化が進みおおよそGoogle、Microsoft、Yahoo!、Amazon.com、eBay、Salesforce.comなどの5つぐらいの企業体が運営する巨大なクラウドコンピュータに集約されていくのではないかというものである。ちなみに2006年の段階で5つと言いながら6つの企業名を出しているがもしYahoo!がこのままMSに買収されればまさに予言通り5つになるあたりもこの予言の面白さのひとつである。
グレッグ氏の所属するサン・マイクロシステムズ社の企業ビジョンは有名な「The Network is The Computer」というキャッチフレーズであり、まさにネットワークそのものがコンピュータになるという意味で今日を予言したビジョンそのものであり、ようやく世界が追いついてきたわけであるが、一方でその間にサーバー機器のコストが劇的に下がったこともクラウド化を後押ししている要因であり、ハイエンドサーバーの得意なサンのシェアはかつてほど高く無いというのもなんとも皮肉な状況でもある。
■クラウド時代のインパクト
一般にクラウドのイメージとしては大量のグリッドコンピューティングで強力なCPUパワーと巨大なストレージを持たせることで、ローカルのクライアントで処理するより効率的なサービスを提供できるため、SaaSやシンクライアントのサービスの広がりがイメージされるが、筆者は本質的にデータ側からのクラウド化への要求も相当強くなっていくと考えている。
「情報爆発」という言葉があるが、現在でも100ヘクサバイト(ギガ、テラ、ペタの上)という単位で世界のデジタル情報は存在していると推計されるが、筆者の会社で2020年の蓄積情報量を推計したところ2020年にはゼタバイト(ヘクサバイトのさらに上)という想像できない単位のデジタル情報を人類は扱うようになりそうである。そうなるともはや壊れやすいハードディスクを大事に守りながら一人一人が大切に管理するというよりはグーグルが実行している(グーグルのデータセンタについての記述はこちら)ようにオーガニックストレージという考え方で、人間の細胞のようにハードディスクも壊れるのが当たり前で毎日何千と死んで、逆にその分新規に生まれ、多少壊れたぐらいでは全体の生態系には影響が無いという考え方が必要になる。こうなるともはや頼りない企業の管理に委ねるよりは、クラウド企業に委ねた方が全体として安全で効率的という考え方にもなるだろう。
次にB2Cのビジネスを考えた時にも、あらゆる企業が自分たちで顧客管理の仕組みを個別に持ち、膨大なデータをそれぞれ別々にため込むことの効率性も問われるのではないだろうか。セキュリティリスクが高まるだけでなく、結局1社の企業だけではそれを十分使いこなすことができていないことも多く、顧客側からしても自分の個人情報が分散することの方がリスクであると感じる人も増えている。
それであればクラウド企業にある程度集約した形で個人情報を委ね、本当に個人の生活者が自分にとって望ましい情報の流通をさせるためには、自分の望む機能を持つ企業の間を横断して情報を流通させるバリューチェーンが必要であり、複数の企業に自分の情報を共同で利用してもらうような仕組みを作るという発想の転換が必要になる。そのためにもプラットフォームとしてのクラウドコンピューティングの可能性がそこにあるのではないかと筆者は考える。
■クラウド時代の情報システム部の役割
かつて情報システム部はホストコンピュータだけ見ていればよい時代があった。ホストコンピュータとその上で動くアプリケーションとデータはある意味一体であり、エンジニアは全てを把握していた。逆に言えばハードウェアのこともアプリケーションのことも全て熟知していなければシステムを作ることができない時代であったとも言えるだろう。
やがてオープン化の波とともに、ネットワークとワークステーション、パソコンなどが登場し、コンピュータそのものの中身まで知る必要はなくなったが、ミドルウェア含めてアプリケーションは逆に複雑化することになり、システムを越えたデータ連係はできるようになった。が、エンドユーザーコンピューティングというのも幻想で、情報システム部門が見なければいけない端末やコンピュータの数は劇的に増えることになる。
そしてクラウドコンピューティングの時代になりようやく、情報システム部門はハードウェアやリソース管理の呪縛から解き放たれ、まさに企業が活用するべきデータをどのように流通させるかを考えることにいちばん時間を使えるようになると言えるだろう。
今でも日本企業がSlaesForceを採用する時の最大の競合は社内システムであるようだが、SLAを自分たちで保証するか、外部に保証してもらうかという意味でも、もはや社内に固執する必要が無くなりつつあると言えるだろう。専用システムの時代はもはや終わりをつげ、プラットフォーム上に存在できないコアコンピタンスな仕組みだけを企業は開発する時代が来るとしたら情報システム部は情報流通マネジメント部として生まれ変わるのかも知れない。
藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」
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