第10回 海外旅行に行かない若者とデジタルコミュニケーション
2007年10月24日
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■海外旅行に行かない若者達
前回、前々回とマスメディア離れする若者について触れてきたが、若者が離れているのはメディアだけではないようである。先日の日経流通新聞の1面は「海外旅行に行かない若者達」というタイトルであった。最近の調査では2000年に比べると2006年は20代で海外旅行人口が120万人も減少しているらしい。特に女性の減少は大きいようだ。かつて海外旅行は若者の憧れのレジャーの上位を占め、溢れる好奇心を満たすはずのものであったはずであるが、いつのまにか海外旅行は若者にとって「お金がかかる」「怖い」「面倒くさい」ものになっているらしい。
本当に興味の無い人も増えているようだが、実際には子供の頃に親に連れて行かれた経験や修学旅行で海外を経験済みの人も多いというのも理由のひとつらしい。すでにグローバリゼーションは我々の日常生活で起きており、日本で入手困難な商品も少なくなりつつあり、未知の情報や未知の出会いもインターネットで手に入れることも十分可能である。
こうした傾向は実は海外旅行だけではない。20-30代は車への関心も低い。世界的には絶好調なトヨタも足下の日本の若者の車離れは心配の種になっている。女性とデートするためや、仲間達と遊びに行くためのコミュニケーション手段としての車はもはや求められておらず、移動手段が中心なのかも知れない。お酒の消費も減っている。かつてのようにハードなお酒により強制的にハイな状態を作ることがコミュニケーションを活性化するための手段だった状況は収束し、まったりとしたコミュニケーションでも十分楽しめるようになったのだろう。このように休みの日は自宅で過ごし、無駄な支出を嫌い、貯蓄欲が高いという若者の傾向が最近の日経の調査などでも出ているようである。
もちろんこれらはコミュニケーション行動の変化だけで説明されるものではなくバブル後の地道な倹約主義やフリーター、ニートの増加による所得格差の拡大、無気力症候群など関係しているとは思われる。しかし、コミュニケーションに対するニーズの強さはますます増加していると感じられその影響は大きい。
かつての携帯電話代の増加により、CDやカラオケの売上が減少したと言われたものであるが、それはどちらも「コミュニケーション費」であったため奪い合いになったと言える。つまり流行のCDを買って、カラオケで歌うのは友人達とのコミュニケーションの道具であり、流行についていくこと自体が仲間意識の確認の行動でもある。これが携帯による頻繁なメール交換に対応することの方が友人達とのコミュニティ維持において重要なのであれば、当然そちらが優先されることになる。一人の若者がかけられる可処分所得と可処分時間と可処分コミュニケーションには限りがある以上、新しい魅力的なコミュニケーション手段は消費行動に大きな影響を与えることは間違いないだろう。
■基本的人権はメタバースにも適用されるべきか?
我々が自己実現を感じる時は様々である。しかし自己表現、社会参加、コミュニティへの帰属、権威獲得、労働、恋愛などは要素の多くがコミュニケーションによって成立する。そしてこれらがネットワーク上のデジタルなコミュニケーションによって実現されつつある。mixiやモバゲータウンブログやYoutubeなどで自己表現は可能であるし、気軽に新しい人との交流をはじめることができる。MMORPGのオンラインゲームの世界では仮想の通貨による富豪や多くの参加者を従える支配者になることも可能であり、仮想とはいえ、デジタルなコミュニケーションを介することで得られる満足度は非常に高いものがある。
韓国ではリネージュというMMORPGで実際ゲーム依存症の人が多数発生し、社会問題になった。実際街の小さいお店の店主のオヤジがゲームの上では王様になった時、彼はゲームの自分こそが本当に自分であると感じたらしい。ゲームの方が現実よりも楽しいのである。それは映画「マトリックス」の中で現実世界よりも仮想のマトリックスの方での生活の方がよかったと裏切ってしまうサイファーというキャラクターが出てくるが、彼のような考えを持つ人が現実の我々の世界にすでに登場してきており、その数は増えたとしてもそれは不思議ではないということかも知れない。
セカンドライフをはじめとするメタバースでは労働行為さえも仮想世界で可能にしようとしており、プレーヤーが自分にとって優先度の高い人格をアバターに与えたとしたら基本的人権はアバターの方にも適用されるべきなのかも知れない。財産や名誉などはリアルのプアーなものよりもメタバース上のリッチな人格の方が守って欲しいものになるかも知れないからである。生きることの意味が自己実現であるとすると、リアルの壁は我々の想像よりもはるかに小さいものなのかも知れない。
藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」
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