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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

CiscoのビジネスコンテストI-Prizeと「Internet of Things(モノのインターネット)」というトレンド

2010年7月 8日

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日本ではあまり話題になっていませんが、Cisco が主催するグローバルイノベーションコンテスト I-Prize の優勝者が先月末決定しましたので、今回はこの話から始めたいと思います。

……としたり顔で書き出しましたが、実はワタシ自身このコンテストのことは、ReadWriteWeb の Internet of Things Takes Cisco I-Prize という記事を読んで初めて知ったくらいで、ともかく二つのことが興味をひきました。

一つは I-Prize というコンテストそのものについての興味です。企業がビジネスアイデアを募集するのは珍しくないかもしれませんが、10億ドルの収益のポテンシャルを求めるのはなかなか壮大ですし、優勝チームへの賞金が25万ドルというのも太っ腹です。

Cisco が I-Prize において募集するビジネスアイデアは、以下の4つのカテゴリです(プレスリリースから引用します)。

  • 未来の仕事:ネットワークの力を利用して、顧客、サプライヤー、同僚を結び、企業や組織のビジネスのあり方を変えるソリューションを提案してください。
  • コネクテッド ライフ:生活環境や文化を劇的に向上させる新しい技術を提案してください。このカテゴリーでは、シームレスに接続できる暮らしのあり方を描いていただきます。
  • 新しい学習方法:学習の時間、場所、方法を一変させる画期的なソリューションを考えてください。
  • 未来のエンターテイメント:人々の娯楽のあり方を変える次世代のソリューションを考案してください。

Cisco は世界最大のネットワーク機器開発会社ですが、それに直接囚われない広がりのあるテーマ設定だと思います。Cisco はこれが単なるビジネスコンテストでなく、世界的なコラボレーションであることを強調しており、事実昨年に続き2回目の開催となった今回は、初回を上回る156ヶ国から2900人もの参加者がありました。

参加者に Cisco のソーシャルビデオシステム、検索プラットフォーム、オンライン会議プラットフォームを使用させるのはプロダクトの宣伝という側面ももちろんあるでしょうが、距離や時間といった世界的なコラボレーションの障害をなくそうとする姿勢とみてよいでしょう。

実際、今回のファイナリストの顔ぶれをみると、ブルガリアやスロベニアといった非英語圏からの候補はもちろん、スウェーデン、コンゴ民主共和国、フランスの混成、他にもパキスタンとフィンランドの混成などメンバーの組み合わせも多彩で、広域的なコラボレーションが実現しています。

さて、今回優勝したのはメキシコの学生グループ Rhinnovation で、彼らのアイデアは、現実世界のデバイスと仮想世界のオンラインデータからユーザの情報を収集・集約し、ユーザの行動パターンを推察する仮想プロファイルを作成する "Life Account" です。

ここで、ワタシの興味をひいた二点目であり ReadWriteWeb の記事タイトルにもある「Internet of Things(モノのインターネット)」というキーワードが浮かび上がります。Rhinnovation の "Life Account" は、現実世界にはりめぐらされた無線センサーが実現する「Internet of Things」とソーシャルメディアの融合といえます。

およそ一年前、本ブログに「Sensorwareふたたび」という文章を書いており、この Sensorware というのはワタシの勝手な造語ですが、高機能な携帯端末、遍在するセンサー、そしてそれらで収集したデータを引き受けるクラウドという構成要素は、「Internet of Things」と同じです。

この言葉自体は2007年頃から使われだしたようで、調べてみると SF 作家のブルース・スターリングが Google で行った講演でこれを演題に掲げておりさすがと思わせますが、広く使われだしたのは昨年からという印象があります。

ReadWriteWeb は、昨年に引き続いて2010年のキートレンドの一つに「Internet of Things」を挙げていますが(ちなみに他の4つは、拡張現実、モバイル、リアルタイムウェブ、そして構造化データ)、いよいよ Rhinnovation のような「モノのインターネット」とソーシャルメディアを融合し、統一的な個人のプロファイルを作り上げるサービスの実現も視野に入ってきました。

「モノのインターネット」と言っても派手さや分かりやすさに欠けるため、これが急激に流行ることはないのではないかと個人的には思っていますが、今年末にこれをテーマにした国際カンファレンス Internet of Things 2010 Conference が東京で開かれるので、そのあたりでこの言葉ももう少しポピュラーになるのかなと睨んでいます。

この分野に興味を持ったのに、年末とか悠長なことを言ってられないという方には、やはり ReadWriteWeb が「Internet of Things」の分野で注目すべき10のブログを選んでいますので、すべて英語ですが頑張ってチェックすることをお勧めします。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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