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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

From Crystal Eyes To Music Dust

2009年1月28日

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この一年近くラジオ番組「ちんさや 〜 電脳系FMラジオ」を愛聴しているのですが、ワタシはこの番組のファン、特にパーソナリティの林さやかさんのファンというだけで、なぜか番組にゲスト出演(!)するという暴挙に及んでしまったりもしたのですが、それはさておき公式サイト上で番組自体ポッドキャスト公開されているので試しに聞いてみてください、と番組が継続するよう微力ながら宣伝させてもらいます。

さて、その「ちんさや」で少し前から、昔異性にプレゼントするために選曲、編集したマイテープの話が図らずも話題となってます。ことこれに関してはイタい思い出のあるワタシとしては、顔がひきつりながらも懐かしい話題です。

「クーリエ・ジャポン」を読んでいて、昔の恋人がくれたカセットテープの内容をネットで晒す極悪ブログ CASSETTE FROM MY EX を知りましたが(参考:POLAR BEAR BLOG)、好きな異性にマイテープをあげるというのは洋の東西を問わない文化だったんでしょうか。

カセットテープはもはや一線から退いた媒体ですが、この種のマイテープ、ミックステープの制作は、ウェブ時代の現在も廃れてはいません。

もっともポピュラーなのは iTunes Store の iMix でしょうか。ただこれは iTunes Store で購入できる曲からしか選べませんし、曲全体を聞き手と共有できるわけではありません。あと iMix について以前から疑問なのは、iMix の曲目リストをウェブに公開したりできるものの、その選曲者を iTunes 上で個別識別できないことで、その点音楽センスを自慢したい選曲者側の欲求(と直截に書くと怒られそうですが)と合致しないところが多々あります。

ウェブベースのミックステープ公開サービスは以上の不満を解決しますが、一方でその音楽共有が著作権問題を孕むことも容易に想像できます。

この手のサービスでは、昨年日本でも多くのユーザを獲得した Muxtape は、サービス開始から権利者団体やメジャーレーベルとの交渉を経て閉鎖にいたるまでの顛末を公開してサービスを止めてしまいましたし、同様のサービスも閉鎖に追い込まれています

Muxtape のサービスを「ステロイド強化版」で受け継ごうとする動き、オープンソースとして生き延びさせようという動きもあります。jwz の略称で知られる著名なフリーソフトウェアプログラマ(現在はナイトクラブ経営が主なようですが)ジェイミー・ザウィンスキーは、ASCAP などにライセンス料を支払うことで合法的に jwz mixtapes を公開していますが(ウェブキャスト用ツールのソースコードも公開するところが彼らしい)、この種の音楽共有自体が悪とみなされる限り、その先行きは暗いといわざるを得ません。

早くこうしたサービスを可能にする包括ライセンスが実現してほしいところですが、ちょうどケヴィン・ケリーが Better Than Owning という面白い文章を書いていて(翻訳が七左衛門のメモ帳で公開されるとよいですね)、この文章における、いずれ購読料なり税金を支払うだけで音楽、書籍、映画を所有することなく必要なときに必要なものをアクセスできるようになるという見通しは、拙訳『デジタル音楽の行方』で予言された未来と重なりますし、このブログでも何度も取り上げているクラウド・コンピューティングの潮流とも呼応します。

あと個人的には、こうしたサービスが、デジタルネットワーク上で提供されるにも関わらず、「テープ」という言葉を採用したものが多いのに興味があります(その点において、iMix の説明文にある「公開プレイリスト」のほうが実態に近い)。

レゲエやヒップホップの DJ によるミックステープ文化の延長というのもあるでしょうし、もっと単純にサービス提供者の年齢的なもの(アラフォー(笑))かもしれませんが、「テープ」という言葉自体が共有のメタファーになっています。

上で iMix について「選曲者を iTunes 上で個別識別できない」という問題点を挙げましたが、ReadWriteWeb の主著リチャード・マクマナスが2009年予測エントリで、一番目に iTunes へのソーシャルネットワーキング機能追加を挙げていたのはおそらくこのあたりを指しているのではないかとワタシは睨んでいます。

先の Macworld Expo で発表された iTunes Store における楽曲の DRM フリー化も大きな前進には違いありませんが、個人的には iTunes のソーシャルメディア化も急務ではないかと考えます。ただこれは、アップルの製品文化にはなじまない方向性なのかもしれません。

さて、マイテープの話から遠くに来てしまいましたが、実は今回の文章を書くにあたり、ワタシが最後(およそ10年前になります)にその手のテープを渡した女性に連絡を取ってテープの行方を尋ねたのですが、手元にはないとのことでほっとしました。

テープを作るとなると選曲にものすごい勢いで没頭し、この曲の次はこの曲しかないとか、B面最後はインスト曲で終わろうとか、相手の女性にしてみればどーでもいいことを真剣に悩んだもので、その熱意をもっとまともな方向に使っていれば、テープを送った女性たちは皆結婚し、一方でワタシはひとりぼっちでこんな文章を書いている、なんて現状はなかったのかもと今更ながら思ったりしました。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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