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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

ヨーロッパ人が野球帽をかぶらない理由

2008年7月28日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら

前回まで2回続けてG8サミットを取り上げました。読者の皆さんには、サミットに限らず、国連とか、WTOといったグローバル・アジェンダを設定する場に是非関心をもっていただければと願っております。なんといっても日本はまだ今のところ主要なプレイヤーですから。

なんて言いながらなんなんですが、今回は一転、CSRの話よりもはるかに「営業成績」の良いヨーロッパ人ネタであります(笑)。

実は、今週からまた出張。ヨーロッパに向かう機中です。「飛行機に乗って出張するのが大嫌いなのに、仕事は通商交渉」という矛盾を抱え込んでしまった私。「どっかでカミングアウトしないとな…」なんて考えながら原稿書いています。

今回はヨーロッパ人の「かぶりもの」についてであります。えー、最初ヨーロッパに来たとき、とても意外だったことのひとつが、あまり「野球帽」をかぶっている人を見かけなかったことです。

昔は日本中の小学生がひいきの野球チームの帽子をかぶっていました。逆に野球帽って大の大人がかぶるもんじゃない、って感覚があったように思います。それが、いつごろからでしょうか、渋谷を闊歩する若い兄ちゃんから、休日にメモを片手にスーパーで買い物をするご同輩、さらには毎朝ゲートボールをプレイされている後期高齢者の先輩方まで、皆ベースボールキャップを愛好されているではありませんか。野球帽は日本国民になくてはならない服飾必需品の地位を獲得したわけであります。

あきらかにアメリカ文化の影響ですよね。かく言う私も、2年間のアメリカ留学ですっかり米化され、大学のロゴの入った野球帽が大変お気に入りでした。あれ、楽ですよね。どんなに寝癖がついていても関係ないし(笑)。

と、ところが、ベルギーのブラッセルでは道行く善男善女、ほとんどかぶってないんですよ、野球帽。もちろんね、夏のパリとか行くと見かけますよ。でも、大半はアメリカやアジアからいらっしゃった観光のお客さんです。

実際ね、中国や韓国の人って、着ているものだけ見たらアジア系のアメリカ人かなって思うこと多いです。ファッションは徹底的にアメリカナイズされている。その点、まだ日本人は独自性があります。ロンドンでルーズソックス履いた女の子の集団見たときは、すっごいインパクトでしたぁ。日本はやっぱすごいなって。もう、周囲の時空を歪めてましたから(笑)。

中国人や韓国人、インド人やブラジル人、みんなアメリカのファッションが大好き。でも、ヨーロッパ人は頑固ですよ。世界中でヨーロッパ人くらいアメリカを馬鹿にしている人種はないです。いろんなところで感じます。仕事していると特にね。ヨーロッパで「お前、アメリカ人かよ」なんて言われて喜んじゃだめですよ。馬鹿にされてるんですから。

この夏休みも、ヨーロッパ各地で多くのアメリカ人が野球帽にTシャツ、短パン姿で高級レストランに入って、周りからいやな顔をされるでしょう。フランス料理店でコーラ頼んだり、星付のイタリアンレストランでピザ頼んだりしてね。

政治の世界でも同じです。通商交渉でもそうなんですが、最後までアメリカと対立してひるまないのはEUだけかもしれません。中国もインドもアメリカとぶつかると最後は降りる。でも、EUはちがいます。

わかるような気がするんです。今は超大国だけど、アメリカ社会のエリート層を形成している白人の苗字をみれば、みんなヨーロッパのどこかの国の系統ですよね。

ちょっと古いですが、アメリカ人で初めて自転車レースのツール・ド・フランスで優勝したのはグレッグ・レモン(Greg LeMond)でした。つづりを見ればあきらかにフランス系。フランスの新聞、ル・モンド(Le Monde)と同じです。フランスの「ムッシュ・ル・モンド」がアメリカに移民して英語読みで「ミスター・レモン」って呼ばれているってことです。ヨーロッパ人から見れば、移民で出て行った人達の末裔って感じでしょうね。「マクドナルド」って典型的なスコットランドの名前です。ブラッセルの時の友達はマクドナルドに行くとき「スコティッシュ・レストランに行こうぜ」って言ってました。

例えば、地球上にまだ未開の島があってですよ、そこに日本人が大勢移り住んで国をつくったとしましょう。100年後、その国が超大国になった。大統領はイケダさんで、同国が誇る世界最大の企業のCEOはマエダさん。文化も超ポップだけど、根っこは日本文化。

もしかすると他の国は超大国たるその国に道を譲るかもしれない。でも、日本はきっと高飛車に出ますよ。所詮、分家ってことで。大統領のイケダ? あそこの家は元々石川の出なんだよな、みたいな。

ヨーロッパのアメリカに対する感覚も似たようなものかも。だからヨーロッパってアメリカの真似したいとかあんまり思わないし、ぶつかったって平気。所詮、自分たちが本家だと思っているから。

そうです。アメリカの世界征服は、ヨーロッパ人がベースボールキャップを愛好するようになったとき完成するのであります。果たしてその日は来るのか?

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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