オープンミュージックビジネスの挑戦
2008年7月30日
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本ブログでもクリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)に関する話題は何度も取り上げており、いささか食傷気味ではありますが、今週 iCommons Summit 2008 が開催されるというのもありますし、毎月技術評論社より献本いただいている Software Design 8月号の Pacific Connection が面白かったので、今回はこれを取り上げたいと思います。
記事のタイトルは『Magnatune:利益を生む「オープンソース」ミュージック』で、音楽ネット配信サービス Magnatune の創始者であるジョン・バックマン(John Buckman)のインタビューです。
2003年にサービスを開始した Magnatune の特色は何と言っても、取り扱うカタログすべての DRM を排し、クリエイティブ・コモンズのライセンスを適用していることが挙げられます。2006年に日本上陸の話があり、しかしその後、特に続報が聞こえてこなかったのでフォローできていませんでしたが、本インタビューで Magnatune が現在黒字に転じていること、月400枚もの CD が寄せられている活況が分かって良かったです。
御多分にもれずレコードビジネスとの不和からサービスを着想したバックマンは、音楽産業の現状を明快に断じます。
米国の場合,音楽産業は年間120億ドル規模の産業で,そのうち80億ドルがライセンス事業,わずか40億ドルが消費者への販売収益だ.業界側が違法コピーについて何を言おうと,それが影響するのは消費者向け販売の3分の1にすぎない.
しかし、既存の音楽業界はそのライセンス事業を1万ドル単位でしか扱わないため、もっと低コストのライセンス事業に狙いどころがあるとバックマンは言います。
そこで重要となるのが非商用での自由な利用を指定できるクリエイティブ・コモンズのライセンスで、ミュージシャンは商業利用時の権利を留保しながら、自由な音楽の流通によるアテンションの増大を両立できるわけです。また派生作品を許さない「改変禁止」条項がリミックスやビデオでの利用に寛大でないミュージシャンも疎外しません。
もっともこの「非営利」、「改変禁止」条項は諸刃の剣であり、例えばリチャード・ストールマンはこのあたりを指して「私はクリエイティブ・コモンズを総じて支持できない。というのも、その一部のライセンスは受け入れがたいものだからだ」と述べているのだと思います。
Software Design の記事には「オープンソース」という単語が入っていますが、バックマン自身クリエイティブ・コモンズとオープンソースの違いをはっきり認めています。
オープンソースのコードは関わる人が増えればそれだけ改良されていく.音楽やビデオ,写真には同じことは言えない.
この断言には異論があるでしょうが、Magnatune が扱う音源がセミプロ以上のレベルであることを考えれば、ソフトウェアとの違いは明らかです。
上記のライセンス事業もそうですが、Magnatune はインターネットというオルタナティブでコストを抑制できる配信元を前提とするロングテール型のビジネスであり、バックマンは自分たちと志を同じくするサービスとして CD Baby などを挙げています(バックマンは現在も主にプログラマーとして過ごしているそうで、創始者が音楽とプログラミングの両方を愛するギークである点もこの二つのサービスの共通点と言えるでしょう)。
Magnatune の顧客の60%は35歳以上だそうですが、アルバムを一枚ずつ買うのは30代以上で、若い世代はデータとして丸ごと欲しがるという音楽利用形態の年代による相違を踏まえ、Magnatune はアルバム単位の販売モデルよりストリーム配信、あるいはダウンロードし放題の定額制モデルを強化していくという話、あと日本からの登録者は全体の8%ほどでプログレッシブロックがいつも好調(いかにも!)といった話など面白い話がいろいろありますが、後は Software Design をどうぞ。
Magnatune が志向する自由な音楽の流通と商用利用のハイブリッドモデルには、同じくクリエイティブ・コモンズライセンスを採用する Jamendo とともに注目していきたいと思いますが、上の定額制モデルを強化する話のような消費者がどのように音楽を聞きたがっているかに合わせる音楽プロバイダーとしての意識、あと最近 Jamendo と MP3tunes が組んで実現したプレイリストサービスのような音楽配信サービス間の連携がポイントでしょう。
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