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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

How the West Was Won and Where It Got Us

2008年7月23日

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先週の土曜日はオープンソースカンファレンス2008 Kansaiに足を運びました。お目当ては株式会社はてなの伊藤直也さんによる「はてなのバックエンドシステムと開発手法、過去と今」でしたが、実際このセッションは300人くらいの聴講者を集めたようで、間違いなくこの日のハイライトになっていました。

前にはてなに押しかけたときも伊藤さんのプレゼンを称えさせてもらったのですが、今回のセッションも大変満足のいくものでした。

伊藤さん自身がパフォーマーとして傑出してるということはないのですが、スライド間の「階段の段差」が低く、プレゼンの流れが分かりやすいので理解しやすいのです。今回のように歴史を辿る種類のセッションだとそれが顕著で、人力検索→受託開発→はてなアンテナ→はてなダイアリー→はてなブックマーク……というサービスの増加、進化に伴う、

  • サーバハードウェア、設備の変化(Pentium II マシンの PC サーバに始まり、サーバケースの自作、さくらインターネットのiDCへの1年がかりの移転)
  • サーバアプリ構成の進化(初期のフロント/バックエンドの分離、受託開発の繰り返しから生まれたフレームワーク(とそのバージョンアップ)、LVS + keepalived による負荷分散Xen による仮想化とサーバ管理ツールの自作
  • 組織体制の確立(アプリ担当とインフラ担当の分離)

の流れが、その時々で抱えていた課題とあわせて語られていて、セッションの受講者も得るものの多い講演だったと思います。

かくしてすっかり良い気分になったのですが、思えば少し前にもはてなのサービスは随分と不安定な時期があり、先月 Software Design田中慎司さんによる連載「はてな流!システム管理のツボ」が始まったときは、落ちまくること Twitter の如しな現状で恥ずかしくないのか? まったく面の皮が厚いもんだ、と皮肉の一つでも書きたくなったのを思い出しました。試行錯誤の日々が終わっていないということでしょう。

セッションに話を戻すと、残念だったのは伊藤さんの話で時間いっぱいだったため質疑応答の時間が取れなかったことです。ワタシは以下の二つの質問をしたいと考えていました。

  1. 講演の中で「はてなインフラ2.0」という表現があったが、インフラ周りの次の大きな転機はいつ頃来ると予想するか。またそれは何によりもたらされるか。新サービスか、それともユーザ数の増加か。
  2. はてなは創業以来サーバインフラの技術を蓄積してきたわけだが、仮にそれがなかったとして2008年にいきなり、例えばはてなブックマークをローンチするような場合でも自前主義でいくか。Amazon Web サービスなどをどの程度活用するか。

実際には以上の質問には裏があり、前者ははてなの新サービス、並びにそれが生み出すトラフィックの性質について聞き出したく、後者は今年のバズワードであるクラウド・コンピューティング、そしてそれで進む分業化をどう見ているか聞きたいということですが、後者に関しては、これからウェブサービスを立ち上げる若人にとっても意味のある質問でしょう。

実はちょうど会場に行くまでの車中で『Googleを支える技術』を読んでいました。そこで語られる情報発電所としての Google のすごさには驚かされますが(意外にシンプルな側面にも時々はっとさせられますが)、伊藤さんの今回の講演はそれよりもずっと身近で参考になるものでしょう。

来月には伊藤さん、田中さん(そして伊藤さんの講演でも名前が挙がっていた KLab の方々)が著者に名前を連ねる『[24時間365日]サーバ/インフラを支える技術』が発売されますが、今回の講演のエッセンスが凝縮された内容を期待してよいでしょう。

はてなに蓄積されたノウハウが他でも活かされ、世のウェブサービスが少しでも安定に動作することを願ってやみません。個人的に最もそれを願うのは、当のはてなに対してだったりするのですが。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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