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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

無料になるもの、無料にならないもの

2008年3月 5日

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『ロングテール—「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』クリス・アンダーソンの次回作が『Free』になることが予告されたのは昨年夏ですが、彼が編集長を務める(この WIRED VISION の親戚筋にあたる)WIRED MAGAZINE の最新号に Free! Why $0.00 Is the Future of Business として本の内容が先行掲載されています。

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記事の内容は B3 Annex のエントリを参照いただくとして、実際に本が刊行されるのは来年ということで気の長い話ですが、こうした記事の反応を見ながら内容を詰めていくのでしょう。『ロングテール』のときのように、同じく WIRED MAGAZINE で勢い良くぶちあげたものの、後になって話を下方修正することにならなければよいのですが、今回の題材にその心配は要らないでしょう。

というのも、クリス・アンダーソンにとっては The Economics of Abundance(過剰の経済学)の発展という意味があるにしろ、インターネットが促進する無料経済というのは昔から議論の蓄積があるテーマだからです(例えば、彼が挙げる贈与経済については、エリック・レイモンドのオープンソース三部作に詳しいですね)。そうした意味で彼の次回作は大ハズシすることはないでしょうが、『ロングテール』のような驚きをもたらすものにはならないかもしれません。

余談ですが、タイトルは Free より Freeconomics日本語訳その1その2)のほうがキャッチーだと思うのですが、やはり Freakonomics(日本語訳『ヤバい経済学』)と重なっちゃうのが気になるのでしょうか。

クリス・アンダーソンの次回作のタイトルを知ったとき、ワタシが連想したのはポール・クルーグマンがおよそ10年前に書いた「Webで勝つには汚い手を」という文章です。ここで俎上に載せられている『ニューエコノミー勝者の条件』を書いたケヴィン・ケリーが Wired の創始者であることからの連想でしょう。

無料経済の話は、ケリーとともに Whole Earth Catalog [注釈]の編集に携わったネット界の最古参スチュワート・ブランドの Information wants to be free(情報は無料になりたがっている)という言葉までさかのぼれるかもしれません。

今「Webで勝つには汚い手を」を読み直し、ネットバブル、ニューエコノミー論花盛りだった10年前に冷静な論評ができたクルーグマンは偉かったと思います。もちろんクリス・アンダーソンにしても「情報時代が無垢の時代を卒業した」ことは分かりきっているでしょうし、かつてのニューエコノミー論のような能天気なものにはならないでしょうが。

個人的に面白いと思うのは、かつて「無料(フリー)に続け」、「まずはWebに食わせろ」とイケイケだったケヴィン・ケリーが、今年に入って The Bottom is Not Enough でボトムアップだけでは十分ではないと説き、Better Than Freeインターネットでコピーされない価値について説いているところです。いずれも彼の著書の主張を修正するものと言えますが、後者の最後を読むと、ケリーは広告モデルこそがインターネットというコピー機械がもたらす無料モデルに対する唯一の策だと考えているようです。

ワタシ自身はへそ曲がりなせいか、インターネットが促進する無料経済の力を理解しながらも、Alex Iskold が The Danger of FreeBeware of Freeconomics で説くその危険性に目が行きますし、音楽の価格は無料に下がり続けるしかないとぬけぬけと書くマイケル・アーリントンに強烈な違和感を覚えます。それより、コンテンツの自由な流通を促進しながら、一方でその作者にフェアに利益がいく仕組みを作ろうとする人により敬意を払いたい。

その試みの一例として、クリエイティブ・コモンズが CC ライセンスはそのままで商用利用時の条件を簡単に追加できるようにする CC+ が挙げられます。これに則りオープンにコンテンツを流通させながら、同時にその特定の利用からお金を徴収するエージェントの役割を果たそうとする RightsAgent というスタートアップが昨年末生まれてますが、その創業者達へのインタビュー記事のタイトルが All (User-Generated) Content Doesn't Want to Be Free(すべての(ユーザ生成)コンテンツが無料になりたがっているわけじゃない)なのは示唆的に思えます。

[注釈] Whole Earth Catalog については(例によって)Wikipedia に詳しいですが、2005年にスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で行った講演で取り上げられたことで再び注目を集めました。HotWired 時代にこの Whole Earth Catalog の特集があったのですが、現在は見れません。コンテンツが WIRED VISION に移行されるとよいのですが、それまでは Internet Archive においてブラウザの文字コードを EUC に変更してお読みください。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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