電力消費なし、レアアースなしの、超高密度ハードディスクが実現できる?(3)
2010年12月24日
画期的な記憶媒体が登場する可能性も
──それにしても、身近な鉄でこのような現象が起こっているというのは驚きです。
鉄というのはありふれていますが、まだまだ謎の多い物質です。例えば、これは鉄ナノ磁石の原子構造ですが、左下と右上では少し配列がずれているのがわかるでしょう。左下は強磁性、右上の方は反強磁性なのですが、両者では1層目の鉄原子の位置が、ほんのわずか、原子1個にも満たない距離だけずれています。たったこれだけのことで、磁場の方向は逆になってしまうのです。このような現象はマクロな磁石の理論では説明がつかず、理論分野の専門家とも協力して新しいミクロなスケールでの理論を構築しようとしています。従来は、基礎研究と応用研究の専門家が完全にわかれていましたが、今は基礎と応用の垣根がなくなりつつあります。転換期が訪れているのを感じますね。
──ハードディスクですが、情報を記録するためだけでなく、ディスクを回転させるモーターにも電力は必要です。情報記録の電力消費がなくなったとして、装置全体として見るとどの程度電力や熱を下げられるものなのでしょうか? また、フラッシュメモリに比べての優位性はいかがでしょう?
共同研究者のWulfhekel博士ともそれについて話していたのですが、ハードディスクの細部についてはメーカーも公開していない部分が多く、全体としてどれくらい電力が下げられるのかについて、現時点ではまだ計算できません。記憶装置分野ではハードディスク系とフラッシュメモリ系がしのぎを削っていますが、私たちの研究はフラッシュメモリを否定するものではなく、ハードディスク系の高密度化につながる技術の1つということです。ハードディスクに限らず、半導体分野にもこの知見が取り入れられるかもしれません。
私たちの発見した現象が応用できれば、「省エネ」「レアアース不使用」「超高密度化」の3つが実現できる可能性があります。特に、日本にとって資源確保しやすい鉄が使えるのは、大きな希望でしょう。画期的な記憶媒体が出てくる可能性もあると、期待しています。
研究者プロフィール
山田 豊和(やまだ とよかず)
1975年12月生まれ。2000年にオランダ・ナイメーヘン大学に留学し、走査トンネル顕微鏡による磁気イメージング手法を確立し、2005年にPh.D(オランダ博士)を取得。2004年から、日本学術振興会特別研究員(PD)、学習院大学理学部助教、Alexander von Humboldtリサーチフェロー(ドイツ・カールスルーエ大学)を経て、現在、千葉大学大学院融合科学研究科ナノサイエンス専攻、特任准教授としてナノ磁石の研究を行っている。
Wulf Wulfhekel
1967年8月生まれ。1997年、オランダ・トゥエンテ大学にてPh.D(オランダ博士)取得後、1998年から2006年まで、ドイツ・ハレのマックスプランク国立研究所で走査トンネル顕微鏡による磁気イメージング手法を確立。2006年よりドイツ・カールスルーエ大学に教授として赴任し、ナノ磁石の研究を行っている。
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