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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

電池不要の「紙」端末が作るセンサーネットワーク(2)

2010年10月29日

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テレビや携帯電話の電波を電源に使う

──環境中にあるエネルギーを取り出す「エネルギーハーベスティング」が最近注目されるようになってきましたね。他の研究では、熱や振動、可視光を利用しているものが多いのですが、電波に注目されたのはどうしてでしょう?

エネルギー源としての電波が微弱なのは確かです。しかし、この10年を振り返ってみると、電波を利用するデバイスが爆発的に増加していることがわかります。電波を利用するデバイスは昔ならテレビ・ラジオくらいしかありませんでしたが、今では1人で複数台の携帯端末を持っていることも珍しくありません。電子機器から出るノイズは増えており、これからも増え続けるのは間違いないでしょう。ちなみに、日本国内の携帯電話会社は1年間に450万MWhの電力量を無線基地局からの電波送信に利用していますが、これは約125万世帯の電力消費量に相当します。基地局が出している電波は意外なほど大きいのです。

もう一つは、電子部品の進歩です。20年前のパソコンと同じような処理能力を持ったチップが数mA(ミリアンペア)から数十mA程度で動作するようになってきています。

今はまだエネルギー源として微弱であっても、5年、10年すれば、電波だけでも十分に電子機器を動作させられるようになるかもしれません。

──それにしても、電波で電子機器を動作するというのは不思議な気がしますね。鉱石ラジオと同じ仕組みと考えてよいのでしょうか?

はい、その通りです。電波というと情報通信のイメージがありますが、初期の頃から電波で給電を行おうというアイデアは存在していたんですよ。現在使われている交流電流による送電システムはニコラ・テスラ(1856〜1943年)が発明したものですが、彼は情報だけでなくエネルギーも送れる無線システムを提唱しています。

──一口に電波と言ってもいろいろな周波数があります。どういう周波数の電波から、どれくらいの電力を取り出せるのでしょうか?

電波から取り出せるエネルギーは、波長の2乗に比例します。電波の周波数と波長は逆数の関係にありますから、低い周波数の電波ほど多くのエネルギーを取り出せるわけです。

──周波数が高くて波長が短いほど、情報は載せやすいんですよね。しかし、さざ波より大きな波の方がエネルギーを取り出しやすいと。

実験に用いた市販のUHFアンテナ。

そう考えて間違いないでしょう。

AM放送(500kHz〜1600kHz)は、FM放送やVHFのテレビ放送(30MHz〜300MHz)、地デジや携帯電話(300MHz〜3GHz)よりも理論的には多くのエネルギーを取り出せますが、アンテナの幅が100mくらい必要になってきます。テレビの周波数帯ならアンテナは数十cmで済みますから、現在はこれを対象としています。

現在、電波強度を可視化する「スペクトラムマップシステム」を構築して、都内での電波強度を調べているところです。東京タワーから数百m離れた芝公園のあたりでは、市販アンテナを用いた実験装置を使って300μW、時には1mWを超える電力を取り出すことができました。理論的には、東京タワー周辺でテレビ放送の電波を対象にするなら数百mWくらいまで取れる可能性もあります。Wi-Fiや携帯電話でも、数十μW程度までは行くかもしれません。

上と同等の性能を持つアンテナを「紙」の上に印刷した。

──屋外の環境では、いろいろな周波数帯の電波が混ざってますよね。

電波の帯域を広げようとすると、どうしてもアンテナの性能は悪くなってしまいます。特定の周波数に絞った方がよいのです。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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