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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

コケが重金属廃水を浄化する(2)

2010年9月24日

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──コケというと地面にへばりついて生えている様子が思い浮かぶのですが、それを栽培して殖やすのでしょうか?

井藤賀:コケはその成長サイクルの中で大きく形を変えます。一般的にコケというとイメージするのは地面から生える茎葉体の状態の植物体ですが、私たちは「原糸体細胞」の状態でヒョウタンゴケを利用しました。原糸体細胞は、胞子が発芽して糸状になったものです。

コケの茎葉体と原糸体。

中塚:原糸体細胞は藻類のように取り扱えますから、水中で簡単に培養できますし、工業原料としても使いやすいというメリットがあります。

──それにしても、鉛だけを選択して吸収するというのは不思議ですね。

井藤賀:生物には2通りの重金属耐性があります。1つは、特定の重金属がないと成長できないというもの。もう1つは、重金属はあってもなくてもかまわないというもので、ヒョウタンゴケはこちらになります。取り入れた鉛を何かの目的に利用しているのではなく、他の生物が生きられない場所で生きるための生存戦略なのでしょう。私がヒョウタンゴケを採取したのは九州にある汚泥が盛られた土地だったのですが、そこではヒョウタンゴケ以外の植物がほとんど生えていませんでした。

──どんな仕組みで鉛を吸着しているのでしょう?

榊原:詳しいメカニズムについてはまだわかっていません。鉛は基本的に生態毒で、無毒化機構を持っていないと、細胞内に取り込むことはできません。コケの場合、重金属を細胞壁に蓄積していることがよくありますが、ヒョウタンゴケも鉛を細胞壁に蓄積していると考えられます。原糸体では細胞が鎖のように連なっていますが、その表面や、細胞と細胞の間に鉛が吸着されているのでしょう。

共同研究で開発した400L規模のヒョウタンゴケ原糸体細胞培養装置。(資料提供:DOWAホールディングス)

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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