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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

コケが重金属廃水を浄化する(1)

2010年9月24日

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生物の持てる力を環境技術に活用しようという動きが広まっている。独立行政法人理化学研究所と、DOWAグループが共同で開発しているのは、コケを利用した重金属廃水処理システム。工業原料以上の鉛蓄積能力を備えたヒョウタンゴケが見つかったことで、事業化も展望に入ってきた。研究とビジネス展開について、理化学研究所の井藤賀操博士、榊原均博士、DOWAテクノロジーの中塚清次博士、川上智博士にうかがった。

鉛だけを取り入れるコケが見つかった!

野山で観察されるヒョウタンゴケの茎葉体。なお、浄水装置に使われるのは糸状の原糸体である。(写真:James K. Lindsey

──重金属を含んだ排水をコケで浄化する研究をされているということですが、よくそんなコケを見つけられましたね。

井藤賀:元々私はコケの生態や分類研究を専門にしていたのですが、2003年からはまったくコケとは関係のない、環境浄化のプロジェクトに参加していました。このプロジェクトは、ゴミの減量化、および効率的なエネルギー取り出しを目的として実施され、私は焼却灰からの有害物質リスクを除去する技術の研究を担当しました。

焼却灰の溶出液に含まれる重金属を植物を使って取り除こうとしていたのですが、高いアルカリ性の溶出液では植物が枯れてしまい、簡単には研究が進みません。灰に耐性のある植物があれば、うまく行くかもしれないと考えて、思いついたのがコケでした。たき火のあとなどに生えるヒョウタンゴケは、灰への耐性があることが知られていましたから、これを使ってみたのです。

ヒョウタンゴケを円筒状の容器に詰め溶出液を流したところ、鉛だけが選択的に取り込まれていることがわかりました。この吸収能力は、異常ともいえるレベルです。そこで特許を出願し、DOWAホールディングスさんと協力して事業化の可能性を探ることになったのです。

──いったいどれくらいの鉛を取り込むものなのでしょう?

井藤賀:乾燥重量で70%が鉛になります。コケというより、ほとんど鉛ですね。

──70%が鉛ですか! しかし、吸収するスピードはどれくらいなのでしょう? コケで浄水というと、ゆっくり水分が吸収されていくようなイメージがあるんですが。

中塚:実測できないくらい速いですよ。工業材料を使って重金属を吸着する場合、分単位で汚水と接触させるフィルタを使うのですが、ヒョウタンゴケもほぼ同じ設計で大丈夫です。吸着の性能自体は、工業材料と同等かそれ以上ですね。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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