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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

22億年前の「超温暖化」は地球に何をもたらしたのか?(3)

2010年8月27日

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メタンハイドレートの分解で、地球の平均温度は100度も上昇した!

──炭素12の大量放出は何を意味するのでしょう?

我々の解釈は、メタンハイドレートの大規模な分解が生じたというものです。

メタンハイドレートはメタンを含む氷状の結晶で、最近では将来のエネルギー源と目されるようになっています。メタンはメタン生成菌によって作られるのですが、そのためメタンに含まれる炭素は軽い炭素12にきわめて富んでいるのです。メタン生成菌によるメタンの生成は全球凍結中でも常に行われており、それがメタンハイドレートになっていたと考えられます。

──そもそもどうしてメタンハイドレートが溶け出したのですか?

先に述べたように、全球凍結中でも火山活動は起こっていますから、二酸化炭素は常に供給されており、少しずつ温室効果で気温が上がっていったのでしょう。

──メタンというのは、強力な温室効果ガスですね。

その通りです。我々は、現在の地球に存在する10倍ものメタンハイドレートが暴走的に溶け出したと考えています。その結果、全球凍結時にはマイナス40度だった平均地表温度は、氷が融けた直後には100度以上も上昇して60度以上になったと推定されます。

二酸化ケイ素がほぼ100%という異常な地層は、この時の風化作用によって作られたのでしょう。

──この時代にいたシアノバクテリアは、こうした環境の激変に耐えられたのでしょうか?

深い海であれば、地上ほど変動の影響は受けなかったでしょう。また、現在のシアノバクテリアには、マイナス数十度からプラス数十度の環境でも生きられるものがいますが、それはこうした環境の激変を生き抜いたことによるのかもしれません。

──メタンハイドレートの融解は、その後の大酸化イベントにどうつながっていくのでしょうか?

地上で急激に風化作用が進んだことで、リンなど生物にとっての必須元素が海に大量に流れ込み、海洋の富栄養化を引き起こしました。これによってシアノバクテリアが大繁殖し、大量の酸素が作られる、大酸化イベントが起こったと考えられます。

大酸化イベント後の地球は酸素に満ちあふれ、我々ヒトを含む真核生物の祖先が出現したのでしょう。

──メタンハイドレートが融解して、どれくらいで気温の急上昇が起こったのでしょう? また、この「超温暖化」はいつくらいに落ち着いたのでしょうか?

地層には温度が記録されるわけではありませんから、いつ何度になったのかはわかりません。

しかし、大気中に大量のメタンが放出されて、それが地球全体に行き渡るには、せいぜい数年くらいしかかからないでしょう。

また、大気中のメタンはいつまでもメタンのままでいるのではなく、分解されて二酸化炭素へと変わっていきます。現在の地球であれば酸素があるため、10年くらいあればメタンが二酸化炭素に変わりますが、当時は今とは大気組成が異なるため、ずっと長い時間がかかったと考えられます。メタンや二酸化炭素が減って、安定的な状態になるまでには、数十万年以上かかったはずです。

──過去に起こった「超温暖化」の研究は、現在進んでいると言われる「温暖化」とどう関係してくるのでしょうか?

22億年前の超温暖化と現在の温暖化は、規模も時間スケールもまったく異なる話ですから、ここで得られた知見が直接役立つというわけではありません。

しかし、地球環境の変動は、現在だけを見ていてはわからないことだらけです。大気組成や気温の変化にはどのようなフィードバックプロセスが関与するのか、地表の氷はいつどのくらい溶けるのか。過去には豊富な事例があり、それを学ぶことで地球全体のシステムについての理解を深められるはずです。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)でも、近年は古気候学の研究成果が取り入れられるようになってきました。

研究者プロフィール

田近英一(たぢか えいいち)

東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻教授。専門は地球惑星システム科学。1963年東京生まれ。1987年東京大学理学部地球物理学科卒。1992年東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻博士課程修了。理学博士。東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻准教授を経て、2010年より現職。著書に『凍った地球〜スノーボールアースと生命進化の物語』(新潮社)、『地環境46億年の大変動』(化学同人)など。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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