このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

22億年前の「超温暖化」は地球に何をもたらしたのか?(2)

2010年8月27日

  • 前のページ
  • 2/3
  • 次のページ

22億年前、酸素濃度が急激に増加する「大酸化イベント」が起こった

──22億年前には、いったいどのようなイベントが起こったのでしょう?

22億年前の全球凍結後に大酸化イベントが起こり、真核生物の誕生へとつながっていった。

地球上の酸素濃度が大きく変化したのです。

酸素は不安定な物質で、地球の大気には元々ほとんど含まれていませんでした。ところが、6億年前と22億年前の2回、酸素濃度が急激に上昇したことがわかっています。6億年前の方は現在の1/100レベルから現在とほぼ同じ濃度になったのですが、22億年前は1/10万とほとんど酸素がない状態から、1/100以上のレベルにまで上昇したと考えられます。

大気中の酸素濃度が増加すると、それまでの嫌気性生物は生きられなくなり、堆積物の中など酸素がない環境に追いやられます。それに代わって酸素呼吸する生物が増加し、生物相が完全に入れ替わるのです。

このような「大酸化イベント」がどうやら22億年前の全球凍結の直後に起こったらしい。全球凍結と酸素濃度の急上昇、そしてその後に起こった真核生物の出現。こうした一連の流れに必然性があるとしたら、どのようなメカニズムが働いていたのか? 我々が興味を持っているのは、そこです。

ミシガン州には、22億年前の全球凍結から大酸化イベントまで連続的につながった地層があります。このような地層は世界でもここにしかありません。ここと、これまで最もよく研究されているオンタリオ州の地層を比較することで、メカニズムがわかるのではないかと考えました。

──ミシガン州の地層から何がわかったのでしょうか?

ミシガン州の地層では、全球凍結の時期は氷河堆積物、大酸化イベントの時期には石灰岩が作られましたが、それらの間に不思議な岩石が挟まっているのが知られていました。この岩石は、ほとんど純粋な二酸化ケイ素(鉱物としては石英が代表的)からなる砂岩でできています。

ミシガン州マーケットレンジ累層群の地層。ポイントとなったのは、ほぼ100%の二酸化ケイ素で構成される砂岩だった。

──ほとんど二酸化ケイ素でできているということがなぜそんなに不思議なんでしょう?

一般的な岩石の組成は、アルミニウムや鉄、マグネシウム、ナトリウムなどがくっついたケイ酸塩になっています。普通、二酸化ケイ素の割合はせいぜい50〜60%というところでしょう。

極端に激しい風化作用でも受けない限り、岩石の組成がほぼ100%二酸化ケイ素ということにはならず、現在の地球上ではこのような岩石が作られることはまずありません。極めて温度が高くて、風化反応が進みやすかった、そのような環境があったとでも仮定しないと説明がつかないのです。

そこで、私たちの研究グループの一人である関根康人博士(東京大学助教)がこの岩石中の炭素同位体を測定してみたところ、面白いことがわかりました。炭素には原子量が12と13の同位体があり、生物が光合成を行うと炭素12をより多く体内に取り込み、逆に環境中には重い炭素13が増えることが知られています。

大酸化イベントでは重い炭素13の割合が増えたことがわかっているのですが、その直前の時期、つまり純粋な二酸化ケイ素を含む地層が作られた時代には、軽い炭素12の割合が2度にわたって増えることを今回発見しました。これは、炭素12を多く含む物質が、大気や海洋に大量放出されたことを意味します。

  • 前のページ
  • 2/3
  • 次のページ
フィードを登録する

前の記事

次の記事

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

過去の記事

月間アーカイブ