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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

22億年前の「超温暖化」は地球に何をもたらしたのか?(1)

2010年8月27日

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ここ10年ほどの間、「スノーボールアース仮説」が大勢の科学者によって支持されるようになってきた。地球全体が氷で覆われる「全球凍結」という現象が、過去には何度も起こったのだという。特に22億年前の全球凍結後には、地球大気の酸素濃度が急激に上昇し、我々を含む真核生物が誕生する契機になったとも言われている。いったい22億年前の地球では何が起こったのか? 東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻の田近英一博士にお聞きした。

地球全土が凍り付く「全球凍結」が何度も繰り返されてきた!

──はるか昔の地球で起こったと言われる「スノーボールアース」の研究を行っているということですが、これはどのような現象なのでしょうか?

地球史における氷河時代。全球凍結が起こったのは、22億年前の「ヒューロニアン氷河時代」、7億年前の「スターチアン氷河時代」、6億年前の「マリノアン氷河時代」と考えられている。

最近の研究により、はるか昔の地球は、地表や海面のすべてが氷で覆われる「全球凍結」状態に何度もなったことがわかってきました。6億年前と7億年前、そして22億年前に全球凍結が起こったことはほぼ確実で、この3回以外にも起こっていた可能性があります。全球凍結では、赤道近くの低緯度にも氷床が存在し、海洋は厚さ1000mの氷で覆われました。平均表面温度はマイナス40度に達したと考えられています。

氷の塊になった地球を雪玉に見立て「スノーボールアース」と呼んだこの仮説は、1992年にジョセフ・カーシュビンク博士が提唱しました。カーシュビンク博士は氷河堆積物の分析によりこの結論に達したわけですが、それまではいったん地球が全球凍結状態になるとそれから脱出することはできない、つまり今ある地球の姿にはなりえないというのが多くの科学者の考え方でした。

ところが、カーシュビンク博士は、全球凍結状態にあると、火山活動によって供給された二酸化炭素が大気中に蓄積し、ついにはその温室効果で氷が溶ける可能性に気づきます。1999年、ポール・ホフマン博士は、氷河堆積物を覆う炭酸塩岩中の炭素同位体を測定することで、約7億〜6億年前の氷河時代の直後に「生物による光合成活動が完全に停止した」ことを明らかにしました。

これ以降、スノーボールアース仮説は科学者の間に広まり、現在では主流の考え方となっています。もっとも、全球凍結の細部についてはまだコンセンサスは取れていないのが現状です。6億年前には、すでに複雑な構造を持った真核生物が生まれていましたが、こうした生物が何百万年間も凍り付いたまま生きていくことはできません。ですから、一部の海や陸地は凍らなかったなど、科学者によって説の細部は異なっています。

──田近博士らが研究しているのは、どの時代なのでしょう?

我々の研究は、22億年前の「ヒューロニアン氷河時代」を対象としています。

6億年前の「マリノアン氷河時代」は比較的年代が新しいこともあって地層も世界中に分布しており、北米の研究者を中心として研究が進んでいます。これに対して22億年前の「ヒューロニアン氷河時代」については、地層の分布が限定されています。

悪条件にもかかわらず我々が「ヒューロニアン氷河時代」に注目しているのは、実はこちらの方こそ、地球史において最大の環境変化が起こったと考えているからです。生物にとっても、これが最大のターニングポイントだった可能性があります。そこで今から8年前の2002年、スノーボールアース仮説を最初に提唱したカーシュビンク博士と共に海外学術調査プロジェクトを立ち上げ、南アやフィンランド、そして北米を調査して、この時代に何が生じたのか研究を続けてきました。今回は、アメリカ合衆国ミシガン州、そしてカナダのオンタリオ州の地層から岩石試料を採取して分析を行いました。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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