強度はこんにゃくの500倍、98%「水」でできた新材料(4)
2010年6月 9日
直感の連鎖が優れた研究を生む
──どのようなきっかけで、このアクアマテリアルを開発されたのですか?
アクアマテリアルのような物質を最初から目指していたわけではまったくありません。
もともとは、異なる性質を持ったタンパク質を結びつけたり、タンパク質に新しい機能を追加したりするための物質を開発していました。
この物質をガラス容器に入れておいたところ、なぜか溶液の濃度が減っていくのです。
ある時、研究メンバーの一人、大黒 耕君が、ガラス容器の壁にこの物質がくっついていることに気づきました。そのために、溶液の濃度が下がっていたのです。
ガラスにくっつくのなら何か面白い使い方ができるかもしれないということで、出てきたアイデアが粘土でした。粘土にはガラスと同様にケイ素がたくさん含まれています。
結合する部分を両側に設けて、「二本手」にすれば、粘土のナノ粒子自体をネットワーク化できるのではないか。そうすれば、水を固められるかもしれないと気づいたのです。
──スムーズに研究は進んだのですか?
一応固まることは固まるけれどそんなに強くはならない、そういう「今一つ」の状態が半年ほど続きました。
ある時、この研究を実質的に1人で担当している王 陸迪(Quigan Wang)君が、アイデアを思いついたのです。ASAPを入れて、粘土のナノ粒子をばらけさせたらどうか、と。実際に試したところ、世界が変わりましたね。この発想がなかったら、「Nature」に掲載されるほど、飛躍的な性能は実現できなかったでしょう。
──ふとしたひらめきから研究が進むのですね。
よい研究には運が必要です。後からならいくらでも理屈付けすることはできますが、誰かの思い付きがなければ飛躍はありません。研究は「コロンブスの卵」だらけですよ。
──研究というのは、普通の人がイメージするより、直感によるところが大きいのですか?
研究の初期段階で右往左往している時にどれだけ第六感が働くかで、研究の成否が決まってきます。例えば、これからどうやって研究を進めていくか、100の選択肢があったとしましょう。動物的な勘や知識があれば選択肢を10にまで絞れますが、それは誰が研究を担当するかによるところが大きいのです。
そして、10に絞り込んだ選択肢のうち、どれを優先するか。人間はだいたい3つくらいまでなら我慢できます。3つ試すうちに結果が出ないと、人間はうまく行かないことを説明するための理由を考えるようになってしまうんですよ。だから、最終的に3つにまで、選択肢を絞り込める感性と幸運が重要。そういう意味で、科学研究にはとても人間くさい面があります。
研究者プロフィール
相田卓三(あいだ たくぞう)
東京大学大学院工学系研究科教授。1956年生まれ。1979年、横浜国立大学卒業後、東京大学工学部で物理化学博士号を取得。現在は、「無機多孔質材料を用いた高分子合成反応の制御」、「デンドリマー型高分子化合物の光・超分子化学」、「メゾスケールの材料化学」「生体関連分子による分子認識と触媒機能」を主なテーマとする。2009年には理化学研究所でもグループを運営し、グループディレクターとして活躍している。
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