このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

強度はこんにゃくの500倍、98%「水」でできた新材料(2)

2010年6月 9日

  • 前のページ
  • 2/4
  • 次のページ

何本もの「指」が粘土の粒子を強力に結びつける

──このアクアマテリアルは、どういう仕組みになっているのでしょうか?

アクアマテリアルには、「粘土」「ASAP」「G3 Binder」という3つのキー要素があります。順を追ってお話ししましょう。

まず、アクアマテリアルで使っている粘土は、白い粉末状の工業用ドライ粘土です。粘土の粒子は直径が25nm(ナノメートル。1nm=100万分の1mm)、厚さ0.5nmの円盤状をしています。

円盤の上下面はマイナスの電荷、縁はプラスの電荷を持っており、そのため粒子同士は固く結びついており、水中に入れてもほどけません。粘土を水に入れても濁ったままなのはそのせいです。

粘土のナノ粒子が結びついているところに「ASAP」という物質を入れると面白いことが起こります。ASAPというのは私たちの命名ですが、別に珍しいものでもなんでもなく、紙おむつなど吸水性の高い商品などに使われているポリアクリル酸ソーダです。これも白い粉末状をしています。

粘土のナノ粒子は、図のような円盤状をしており、縁はプラスの電荷を帯びている。

──ASAPは、どのような物質なのでしょう?

分子が長い鎖のようにつながったポリマーです。この鎖はマイナスの電荷を帯びており、そこにナトリウムイオンがくっついた構造になっています。

粘土の入った水にASAPを入れると、プラスの電荷を持った粘土ナノ粒子の縁にくるりと巻き付きます。ASAPにくっついていたナトリウムイオンとナノ粒子の縁が入れ替わるわけです。

粘土ナノ粒子の表面はマイナスの電荷を持つため、粒子同士はお互いに反発してバラバラになるのです。

──ASAPを入れると溶液が澄んだのは、こういうわけだったんですね。

そうです。私たちはこの状態の溶液を粘土ナノシート分散液と呼んでいますが、ここまで述べたのはすでに知られている現象です。

アクアマテリアルは、こうやってばらけた粘土ナノ粒子同士をネットワーク構造で結びつけています。そのために使われるのが、今回開発した「G3-Binder」です。

シャンプーなどではポリエチレングリコールという物質が使われていますが、G3-Binderはこれに「指」のような構造を付けたものだと言えるでしょう。

G3-Binderの構造図。両端にある「指」が粘土のナノ粒子同士を結びつけてネットワーク化する。

例えば、ヤモリは指でピタリと壁に張り付きますね。1本の指だけだと吸着力が弱かったとしても、何本もの指で張り付けば吸着力は格段に高まります。結合が外れるには、すべての指が一度に離れないといけないわけですから。

分散液にG3 Binderを垂らすと、このような「指」がナノ粒子に張り付き、瞬時にネットワーク構造を作り出します。

このネットワーク構造は「水素結合」ですが、従来は水素結合で強度を出すのは難しいと考えられていました。私たちは何本もの「指」を使い、一度に全部の結合が外れないようにすることで、トータルの強度を維持できるようにしたわけです。

アクアマテリアルの製造過程。まず粘土を水に入れる(左)。この段階では、粘土のナノ粒子同士がくっついているため、水は濁っている。ここにASAPを入れると、ASAPが粘土ナノ粒子の縁に巻き付く(中)。粒子がバラバラになるため、水が澄んでくる。さらに、G3-Binderを微量投入して振動させると、粘土ナノ粒子がネットワーク構造を作ってアクアマテリアルとなる(右)。

  • 前のページ
  • 2/4
  • 次のページ
フィードを登録する

前の記事

次の記事

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

過去の記事

月間アーカイブ