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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

強度はこんにゃくの500倍、98%「水」でできた新材料(1)

2010年6月 9日

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98%が水でできているのに、シリコンゴム並みの強度。そんな不思議な物質を、東京大学 大学院工学系研究科の相田卓三教授の研究グループが開発した。環境に負荷を掛けないこの新材料は、医療から建築、防災まで、幅広い分野での応用が期待されている。相田教授に詳細をうかがった。

98%が水の、丈夫な物質ができた!

相田研究室が開発した「アクアマテリアル」は、92〜98%が「水」でできた、透明な物質だ。

──相田研究室では、98%が水の新素材を開発されたとお聞きしました。いったいどのような物質なのでしょう?

これが私たちの開発した「アクアマテリアル」です。おっしゃる通り98%は水、残りの約2%は工業用の粘土、そして私たちが開発した材料をごくわずかに含んでいます。粘土の量が2%くらいだと引っ張れば伸びる素材になりますし、もう少し増やすと消しゴムのようになります。面白いことに、ナイフなどで切ってくっつければ融合するという性質も持っているんですよ。

今までにも、こういうゲル状物質(ハイドロゲル)はいろいろ開発されており、お菓子のグミや医療用に応用されています。ところが、必要成分を混ぜるだけで調製できるハイドロゲルの中には、これほど大きな強度を有するものはありませんでした。これまでのものは、マヨネーズかせいぜい寒天やこんにゃく程度の強度しかなかったのです。

今回のアクアマテリアルは、水分が98%でありながら、シリコンゴムと同等、だいたいこんにゃくの500倍に相当する強度を実現しています。

指で押しつぶしても、すぐ元の形に戻る。

──製造が簡単ということですが、このアクアマテリアルはどのようにして作られるのですか?

まず、水に工業用粘土の粉末を入れます。この段階では、粘土は水に溶けず、白く濁っています。ここに、ASAPという物質を入れると溶液が澄んできます。これで溶液の準備ができました。

あとは、私たちが開発した物質を水に溶かして、先ほどの溶液にスポイトで一滴垂らし、振動装置で数秒間揺らすだけです。すると、瞬時にアクアマテリアルが出来上がります。

──本当に簡単なんですね! これなら専門知識がない人でも作れそうです。

今まで、これくらいの強度を持ったゲル状物質を作るには、専門知識を持った人が実験室で調製する必要があったわけです。しかし、私たちのアクアマテリアルなら必要成分を混合するだけでできるので、治療現場で医者が必要に応じて成形するといったこともできるかもしれません。

水も純水である必要はなく、水道水で十分です。多少塩分が含まれていても、同じ強度であることを確認しています。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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