次世代電池レースで脚光を浴び始めた「マグネシウム電池」(2)
2010年3月26日
不可能だと思われていたマグネシウム空気電池ができた!
──いったい、どうやってそれを解決したのでしょう?
栗原:被膜ができるのは、生成する水酸化マグネシウムが水に溶けにくいからです。電解液中で、水酸化マグネシウムを作らず、イオンのまま安定して存在したらどうでしょう? そうすれば、負極のマグネシウムはどんどん電解液に溶け続け、反応が止まることはなくなります。
TSCの鈴木社長が開発した材料で、これが可能になりました。この材料が何なのかは企業秘密で公開できません。ここでは仮に「X」としておきましょう。
TSCのマグネシウム空気電池では、不織布に「X」が塗工されており、水を垂らせばこの「X」が電解液に溶け出します。この場合、従来のマグネシウム空気電池で起こっていた発熱反応も起こりません。
──電解液にどんどん溶け出すということは、最終的に負極のマグネシウムはなくなってしまうのですか?
栗原:金属マグネシウムはきれいになくなりました。残った電解液を乾燥させ分析すると、酸化マグネシウムと水酸化マグネシウムが検出されます。
SAITECでもマグネシウム空気電池を作り、さまざまな電解液を試してみましたが、どれもすぐマグネシウムの表面に黒い被膜がついてアウトでした。
マグネシウムを完全に溶かすことができたのは、「X」を使った電解液だけです。「X」によってマグネシウムが持つポテンシャルの9割は取り出せています。電池で活物質の9割を生かせるというのはすごいことなんですよ。
──電圧や容量はどれくらいでしょうか?
栗原:試作品では、1層で1.5〜1.6V程度です。マグネシウム空気電池の電圧は酸化還元電位だけから求めると2.76Vになりますが、反応等の抵抗があるので、そこまでは出ません。さらに、現在は不織布に「X」を塗る工程が手作業ですし、セパレータ(負極と正極のショートを避けるための膜)などもただの濾紙(ろし)を使っています。これらの内部抵抗も大きいです。これらの内部抵抗を無視できる3極セルで測定すると、2.0Vになるので、工程を機械化して、セパレータや他の部分を改良すれば2.0V近くにはなるはずです。ただし、電圧でリチウム一次電池(3.0V)を超えることはありません。
一方、容量はリチウム一次電池を大きく上回ります。マグネシウムの理論的な容量は2290mAh/gですが、現在、TSCのマグネシウム空気電池では負極の容量が2000mAh/gに至っております。マグネシウムが持つポテンシャルの9割を取り出せるといったのは、こういうことです。
正極は空気なので、容量は無限とも考えられます。しかしながら、他の空気電池も同じですが、被膜生成により、酸素の取り込み、あるいは酸素の反応が阻害されて、電池反応が止まります。実は、「X」は正極の被膜生成も抑制します。したがって、この電池が尽きるのは、「X」の水酸化マグネシウム溶解許容量を超えた時、もしくは負極のマグネシウムが消失した時です。
これに対して、リチウム一次電池では、負極リチウムの容量はマグネシウムを超えますが、正極が足を引っ張ります。例えば、使われる二酸化マンガンは理論容量でも308mAh/gで、実際には100mAh/g程度です。では、容量無限大の空気正極を用いればいいのではないかとも考えられますが、大気中には水蒸気が含まれるので、大気中から酸素を取り込むとなると、水とリチウムが反応して燃えてしまいます。水系電解液を使えないリチウムでは、空気電池を構成するのが簡単ではないことになります。
水系電解液を使えるマグネシウムでは、このような問題は生じないので、空気電池が作りやすいのです。したがって、市販リチウム一次電池の10倍以上の容量を持った電池も夢ではありません。
鈴木:理論値に驚くほど近い値が出ていますから、今の段階でも十分に製品化が可能です。
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