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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

重イオンビームが生物進化を加速する(3)

2010年3月12日

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炭素や鉄のイオンを光速の半分のスピードに加速する

──これが加速器ですか!大きいですね。

仁科加速研究センター最大の加速器「SRC」。重量は8300トン、直径18.5m。小型のビルほどの巨大さだ。SRCは、ウランや鉄などの元素がどうやって生まれてきたのかなど、核物理学研究に用いられる。

平野:今見ていただいているのは、仁科加速器研究センター最大の加速器「SRC」で、総重量は8300トンにもなります。私たち生物照射チームが利用しているのは、RRCという加速器です。仁科加速器研究センターの加速器は多段式になっており、RRC、fRC、IRC、SRCと段階的に加速すれば最大で光速の70%程度にまで原子核を加速できます。生物照射チームでは、そこまでの速度は必要なく、だいたい光速の半分程度まで加速を行います。

──照射作業はどうやって行うのですか?

平野:加速器で加速された炭素などの重イオンは、内部が真空になったパイプを通って、各実験装置まで送られます。パイプにはところどころカーブがありますが、ここでは電磁石によってコースを制御します。

ここが実際に重イオンビームを照射する部分です。種などを詰めたカセットをセットしておけば、自動的に照射が行われます。照射部には何枚かアルミ板を置いて、重イオンのスピードを調整しています。現在は重イオンの種類(核種)やスピードを変化させることによって、変異の起こりやすさや変異の規模がどのように変わるかを研究しています。

重イオンビームの照射口付近。アルミの板を重ねて、ビームの速度を調整する。

カセットに入った種などは、照射口へと自動的に送られ、重イオンビームを数秒間照射される。

──スピードが速いほど、エネルギーが大きくなるのですか?

カセットに詰められた、種などの照射材料。

平野:スピートが遅いほど、エネルギーは大きくなります。放射線が物質に与える単位長さ辺りのエネルギーをLET(線エネルギー付与)といい、LETが大きいほど生物に与える影響は大きくなります。重イオンが影響を与える道筋をイオントラックといいますが、重イオンがゆっくり通るほど、まわりに強い影響を与えると考えてください。反応時間と考えるとイメージしやすいかもしれません。

──どのくらい照射すると、どのくらいの割合で変異が起こるのですか?

平野:1つのカセットには、小さい種なら数百粒詰められます。1カセット当たりの照射時間はだいたい数秒と言うところでしょう。変異率は、コンマ数%から、非常に高い時で数十%。100個の種に照射したら、そのうち1個くらいは目に見える変異が現れます。

阿部:「引き」の強い人なら、1回のトライアルで望む形質を当てることもあります。こちらとしては線量やLETなどの照射条件を変えて、変異誘発効果に関していろいろ実験したいところなのですが、本実験前に「もう必要な形質が出たからこれでけっこうです」という人も多くて。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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