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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

コーラを垂らせばラジコンが動く!? バイオ電池の秘める可能性(2)

2010年1月28日

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呼吸するように電気を生み出す燃料電池

──バイオ電池はどのような仕組みで発電するのでしょう?

戸木田:簡単に言えば、人間や動物がものを食べて呼吸するのと同じ仕組みを使っているということです。負極ではグルコースを分解し、正極では酸素を取り入れて水を作ります。これによって電子が流れる、つまり電気を取り出せることになります。

人間の場合は、ATP(アデノシン三リン酸)という物質を作り、そこからエネルギーを取り出すわけですが、バイオ電池はその過程を省略して、直接電極をつないでいると考えればわかりやすいでしょう。

負極側ではぶどう糖を分解する反応、正極側では酸素を水にする反応が同時に起こることで、電気を取り出せる。

──負極側でぶどう糖が分解されて生成された物質はどうするのでしょう?

戸木田:ぶどう糖C₆H₁₂O₆から水素原子が2つ抜けたグルコノラクトンC₆H₁₀O₆という物質が残ります。これは食品添加物として使われる物質です。発電が終了すると、グルコノラクトンの入った水溶液が残ります。次に使う際には、この水溶液を抜いて、再度ぶどう糖水溶液に入れ替える作業が必要です。人間の場合は、さらに何段階もの分解を経てCO₂として排出していますが、私たちはまだ1段階の反応しか使っていません。

──仕組み自体はシンプルなんですね。どうしてこれまでぶどう糖を使った電池の研究があまり進んでいなかったのでしょう?

戸木田:電子を電極へ受け渡すのが難しかったからです。水素やメタノールを使った燃料電池では、金属触媒の上で反応が起こりますから、そのまま電子を電極に渡せます。ところが、バイオ電池は触媒に絶縁体である酵素を用いるため、反応が絶縁体の上で起こることになり、電子を電極へ流すことが難しかったのです。

──どうやって、その問題を解決したのですか?

戸木田:独自の電子伝達物質を開発しました。例えば負極側ではナフトキノン誘導体を電子伝達物質として用いています。正極側、負極側それぞれで、酵素と電子伝達物質を炭素繊維電極の上に固定し、それらでセパレータを挟む構造になっています。

私たちのバイオ電池はこうしたシート状になっているため、積層化したり、用途に合わせて形を変えることも簡単です。

──大量生産はできますか?

戸木田:基本的には、繊維状の電極に酵素や電子伝達物質を溶媒に溶かして塗って、乾かし固定します。真空蒸着装置などの大規模な設備がいらないのはメリットです。詳しくはお話しできませんが、特別な材料も使っていません。

──電池といいつつ、有機化学分野の知識も必要になるんですね。

戸木田:そこは苦労した点です。元々私たちのチームはリチウムイオン電池の開発を行っていた研究者が多かったのですが、バイオ電池には有機化学、分子生物学のノウハウも必要になります。

酒井:私の専門もリチウムイオン電池でした。生物電気化学については、京都大学大学院の加納研究室(旧池田研究室)の技術協力も受けています。また、生物系の研究者もメンバーとして取り込み、開発を進めることができました。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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