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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

コーラを垂らせばラジコンが動く!? バイオ電池の秘める可能性(1)

2010年1月28日

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ソニーが次世代の燃料電池として開発している「バイオ電池」は、ぶどう糖で動作する燃料電池だ。ぶどう糖を含んでいるコーラを電池に垂らすだけで発電し、濃度などを調整したぶどう糖水溶液を使うとラジコンやウォークマンが動かせる。このバイオ電池は、情報機器や医療機器のあり方を根本的に変えてしまう可能性があるのだという。同社先端マテリアル研究所の戸木田裕一氏と、酒井秀樹氏に詳細をうかがった。

タカラトミーと試作した、手のひらサイズのラジコンカー。

糖分のパワーでラジコンカーが走る

──ぶどう糖を燃料にして発電する「バイオ電池」を開発されているそうですね。

酒井:実際にバイオ電池から電気を取り出す様子をお見せしましょう。ここに電池で動く小さなプロペラがあります。このプロペラをバイオ電池につなぎます。そして、コーラを垂らすと……。

──かなり勢いよくプロペラ回りますね!

戸木田:コーラに含まれているぶどう糖で発電しています。

一方、こちらはタカラトミーと一緒に試作した無線操縦カーです。濃度などを調整したぶどう糖水溶液を電池に垂らすことで動作します。濃度7%のぶどう糖水溶液8ccで1時間程度遊び続けることができますよ。

先日、タカラトミーが新商品をお披露目する業界向けの展示会で、遊びとエコを結びつけたおもちゃのコンセプトモデルを発表しました。その中に、ぶどう糖水溶液で発電して走る無線操縦カーと、様々な発電部ユニットと駆動部ユニットを組み合わせて遊ぶおもちゃのコンセプトモデルもあり、発電部ユニットの1つにバイオ電池も採用されています。

──それにしても、家電や情報機器に強いソニーがバイオ電池を開発するというのは何だか意外な気がします。

戸木田:実はそれほど意外な話でもないんですよ。私たちのバイオ電池というのは、要するに燃料電池の一種です。燃料電池は水素やメタノールを使ったものが先行していますが、これらに比べてぶどう糖が本来持っているエネルギーのポテンシャルは高く、高性能の燃料電池が作れる可能性があります。バイオ電池は、次世代の燃料電池という位置づけです。

──性能がよいというのは、駆動時間を伸ばせるということでしょうか?

戸木田:それもあります。ご飯1杯に含まれるぶどう糖のエネルギーをフルに取り出すことができれば、単三アルカリ乾電池96本分になるとも言われています。

さらに、バイオ電池の燃料はぶどう糖ですから、水素やメタノールに比べて燃料の取扱いが楽です。性能がよい上に、高い安全性という付加価値もあるわけです。

また、バイオ電池は他の燃料電池の触媒に使われている白金を使わないという点も大きなメリットです。白金は埋蔵量が8万トンと少なく、貴金属としての価値が高いため、価格が下がりません。これに対して、バイオ電池は触媒として「酵素」を用いているため、工業的につくることが可能です。

──自動車用などの高出力用途についてはどうでしょう?

戸木田:高出力はあまり想定していません。それよりは、携帯電話などの電子機器を長持ちさせる方向で考えています。パソコンを動かすところまで持って行きたいですね。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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