ボタンを押す振動で動作する「電池レスリモコン」(3)
2009年12月25日
──素人考えだとリモコンの消費電力は低そうですが、どういうところが課題だったのでしょう?
郡司:確かに現在のマイコンは、極めて消費電力が低くなっており、8ビットや16ビットの製品なら、20MHzでフルに動かしても7mA以下、スタンバイ時は0.3μAというレベルになっています。ところが、赤外線を使って信号を送信するリモコンの回路には瞬間的に数百mAが必要になります。
これに対して振力電池の電力は極めて小さい上、出力が独特のため、そのまま装置につなげば動くというものではありませんでした。瞬間的な電圧は高く、マイコンを動かすための定電圧を、十分な時間取り出せないのです。
──コンデンサに蓄えたりしたのでしょうか?
郡司:最初のうちは、単純にチャージしたものをマイコンで使うようにしたこともあったのですが、いろいろな実験をした結果、単純に蓄えるだけでは有効に使えない事が分かりました。回路を改良する事で、マイコンを駆動することはできるようになって、2008年の組込み総合技術展に参考出品したのですが、この時はまだ完全な電池レスではありませんでした。出展したものは、リモコンを模したもので、キーとキースキャンをする部分と押されたキーを表示する部分の2つで構成されていたのですが、キースキャンを行なうマイコンの電力だけを振力電池でまかない、それ以外の部分の動作に電池を使っていました。
──今回発表したリモコンは、赤外線方式ではないのですね。
郡司:消費電力の少ないZigBeeベースの無線方式です。単に通信方式を変えただけでなく、無線チップを内蔵したマイコンを開発し、さらに独自の電源制御回路を開発しました。ここが去年から大きく変わった点です。
振力電池の出力は瞬間的な電圧が高いので、電源制御回路で、これを定電圧で一定時間、電力を保持できる形に変換しています。
──電源制御回路によって、どれくらいの電気を供給できるようになったのでしょう?
郡司:ボタンの押し方によっても変わってきますが、マイコンへは2.5V、消費電流は信号送信時に20mA程度で、それを2〜3ミリ秒くらい持続できます。これは振力発電の性能向上、超低消費電力のRF(無線)内蔵マイコンの採用、電源制御回路の改良という3つが揃って初めて実現できました。
──電池レスリモコンの用途として、想定しているのは?
郡司:最近では上位機種のテレビに無線方式リモコンが採用されるようになってきているので、RFを既に使われている用途などには入りやすいのではと考えています。
──電池レスリモコンを実用化する上での課題は?
塚本:見ておわかりのように、現時点ではかなり分厚いものになっていますから、これを薄型化する必要があります。セットメーカー様に提案できるようにするには、振力電池と、マイコン、電源制御回路、この3つの改良を行って、現在の1/3〜1/4の大きさにすることが必要です。
また、レスポンスの改善も課題です。現在は押してから信号が送信されるまでにタイムラグがあります。振力電池はボタンが押された時、離された時の両方で発電するようになっていますから、離されるまで信号送信を待っているのです。今後発電効率がよくなれば、押された時の電力だけで信号を送信できるようになりますから、レスポンスはよくなるでしょう。
また、今は信号がいったん送信されたあと、マイコンは電源が切れた状態になりますから、音量ボタンのように連続的に信号を送信する処理ができません。電池レスとは言えなくなりますが、二次電池と振力電池のハイブリッドという解もありえると思います。
研究者プロフィール
速水 浩平(はやみず こうへい)
2002年4月、慶應義塾大学環境情報学部入学。2006年4月、慶應義塾大学 政策メディア研究科修士課程。同年9月、株式会社音力発電設立、同代表取締役就任。同年11月、"Idea to Product 2006 Global Competition" Kelleher Chair in Entrepreneurship Challenge 3位 受賞。2009年2月 第5回かながわ"キラリ"チャレンジャー大賞 スタートアップ部門大賞受賞。2008年12月、渋谷ハチ公前クリーンエネルギー実証実験。2009年4月、藤沢市役所入口に発電ゲート設置。
塚本 宏和(つかもと ひろかず)(左)
1988年のNEC入社以来、半導体部門(現NECエレクトロニクス)でマイコン製品の顧客サポート、ソリューション開発、商品企画などを担当。2002年から5年間は香港の現地法人に赴任し、中国市場での販売拡大に携わった。
郡司 高久(ぐんじ たかひさ)(右)
2004年NECエレクトロニクス入社。以来、マイコンを使ったソリューションの企画・開発・技術サポートに従事。
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