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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

リチウムイオン電池の次を狙うは、リチウム空気電池(3)

2009年11月26日

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今回開発されたリチウム空気電池。上部の細いガラス管に入っているのが負極活物質の金属リチウムと有機電解液だ。下の管には水溶性電解液が入っており、上の管とは固体電解質で仕切られている。下の管の底は多孔質炭素と触媒とバインダーからなる空気極である。その空気極は直接空気と接触している。

──しかし、リチウムは水と反応するのではないでしょうか?

その通りです。水酸化イオンとリチウムイオンを、どう合わせるかにはとても苦労しました。

私たちは、全固体型リチウムイオン電池でも使われている固体電解質で、負極区域と正極区域を区切りました。この固体電解質は、リチウムイオンだけを通し、水酸化イオンやプロトン(水素イオン、H⁺)、それに水は通しません。

従来のリチウム酸素電池は有機電解液のみを使っていました。それに対して、私たちの空気電池では、固体電解質や水も利用している点が異なります。

新しいリチウム空気電池の模式図。生成されるのは水溶性の水酸化リチウムであるため、反応を妨げることがない。充電する際には、充電専用の電極を使う。(独立行政法人産業技術総合研究所(AIST)提供)

──性能はどれくらい向上したのでしょう?

正極(空気極)に着目した場合、連続で50000mAh/g(空気極の重さあたり)の放電に成功しました。リチウムイオン電池で120〜150mAh/g(正極の活物質の重さあたり)、従来型のリチウム酸素電池で700〜3000mAh/g(空気極の重さあたり)だったことを考えると大幅な性能向上です。ただし、負極に使う金属リチウムの比容量は理論的に3800mAh/gですから、電池全体の比容量もこれを超えることはありません。50000mAh/gというのは、正極活物質の性能評価だと考えてください。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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