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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

リチウムイオン電池の次を狙うは、リチウム空気電池(4)

2009年11月26日

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リチウムを燃料として使う「燃料電池」

──新しいリチウム空気電池は、充電できる二次電池なのでしょうか? それとも一次電池でしょうか?

両方を考えています。

まず、二次電池として使う場合、放電するのと同じ正極から充電すると、水酸化イオンが酸素になり、炭素が酸化されてしまいます。これを放っておくと、炭酸リチウムが生じて問題を起こしますから、充電専用の電極を設けています。

しかし、二次電池として使うのでは、このリチウム空気電池のポテンシャルを生かし切れません。私たちが目指しているのは、リチウム燃料電池です。

──これは、リチウムを燃料として使うということですか?

そういうことです。みなさんは、燃料電池というと水素を思い浮かべると思いますが、電気を取り出せるものなら、何でも燃料電池になりえます。

水素と酸素を合わせると、取り出せる電位は1.22Vです。しかし、リチウムと酸素を合わせれば、4.22Vくらいになります。

また、水素は運搬や貯蔵が難しく、爆発の危険性もあります。水素のエネルギー密度は高いのですが、タンクを使わないといけないため、結局リチウムを使った方がコストは低く、エネルギー密度は高くすることが可能です。リチウムは水と反応しますが、表面に被膜ができていればそれほど危険ではありません。安全性の問題がまったくないわけではありませんが、水素に比べればはるかに安全です。

これからは、水素社会ではなく、リチウム社会になるのではないか。大学院生の時から、私はずっとそう考え続けてきました。

使用済み電池から負極を取り外してリチウムを回収できれば、リチウム燃料電池となる。(独立行政法人産業技術総合研究所(AIST)提供)

使用済み電池からリチウムを回収して再利用

──使用済みのリチウム空気電池から、リチウムを回収するわけですね。

リチウムイオン電池の場合、リチウムは複雑な酸化物になっていますから、回収するにはかなりのコストがかかります。一からリチウムを製錬するよりも高くなるほどです。

これに対し、私たちのリチウム空気電池で生成されるのは、水酸化リチウムですからリサイクルは圧倒的に行いやすいはずです。水に溶けている水酸化リチウムを回収して、比較的簡単に金属リチウムに戻せます。

──どうやって金属リチウムに戻すのですか? 回収するためのコストはどれくらいかかるのでしょう?

メッキや電気分解の技術を使うことになります。必要な消費電力については、今後の研究課題です。

──電気自動車の性能を大幅にアップできそうですね。

エネルギー密度を10倍にできれば、走行距離は10倍にできるでしょう。電池を使い切ったら、充電するのではなく取り外し、工場でまとめてリチウムを回収することになります。

──今後の研究ロードマップを教えていただけますか?

現在は、充電池型と燃料電池型の両方を進めていますが、一番の課題は正極と負極の間にある固体電解質です。

先に述べたとおり、この電解質はリチウムイオンの出入りが可能です。しかし、固体であるため、イオンの移動速度が遅くなるのです。速度を高めるために、現在は薄い固体電解質を使っていますが、そうすると今度は耐久性が低くなってしまいます。

この固体電解質の問題さえクリアできれば、2〜3年程度で実用段階に持って行ける可能性はあります。

研究者プロフィール

周 豪慎(しゅう ごうしん/Haoshen Zhou)

産業技術総合研究所、エネルギー技術研究部門、エネルギー界面技術研究グループ長。1964年中国無錫市生まれ、1985年中国南京大学理学部卒業、1994年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、理化学研究所基礎科学特別研究員、1997年旧工業技術院電子技術総合研究所研究官、主任研究官。2001年、産業技術総合研究所主任研究員を経て、2008年より現職。専門はナノ機能材料、超撥水・超親水材料、環境検出素子、色素増感太陽電池、エネルギー貯蔵デバイス。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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