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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

リチウムイオン電池の次を狙うは、リチウム空気電池(1)

2009年11月26日

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自動車メーカーは、リチウムイオン電池を搭載した電気自動車の開発にしのぎを削る。しかし、リチウムイオン電池でガソリンと同等のエネルギー性能を実現できないことは明白で、次を見据えた電池開発がすでに各所で加速している。中でも期待されているのが、金属を使った「金属空気電池」だ。独立行政法人 産業技術総合研究所、エネルギー技術研究部門 エネルギー界面技術グループの周 豪慎グループ長は、リチウムを利用した新しい構造のリチウム空気電池の開発に成功した。

リチウムイオン電池では、電気自動車に不十分?

──リチウムを使った、新しいタイプの電池を開発されているとお聞きしました。現在、リチウムイオン電池が急速に普及していますが、これでは不十分なのでしょうか?

リチウムイオン電池はパソコンや携帯電話、デジカメなど、さまざまな機器に使われるようになっており、充電可能な「二次電池」としては最もエネルギー密度(電池の単位質量もしくは単位体積当たりで取り出せるエネルギー)が高いと言えます。

こうした小さな電子機器なら、現在のリチウムイオン電池でも十分でしょう。しかし、電気自動車に十分かといえば、それは疑問です。

電気自動車がいまだ実用化できていない最大の理由は、バッテリーにあります。ガソリン自動車と同等の走行性能を実現するには、800〜900Wh/kgのエネルギー密度が必要と言われていますが、現在のリチウムイオン電池はまだ100Wh/kg程度、理論的にも250Wh/kgが限界です。現在より、少なくとも8倍はエネルギー密度を上げなければなりません。

──電池の性能では出力密度も重要だと思いますが、こちらはどうでしょう?

出力密度は、山道を登る時などのパワーや、充放電の速さに影響してきます。こちらに関しては、技術の進歩によって十分なレベルを達成できるようになってきました。

一方のエネルギー密度は、1回の充電でどのくらい走れるのかという、走行距離に関わってきます。現在は、ガソリン自動車に比べて1/8、つまり1桁近い差があるわけで、これを今の技術のまま解決するのは困難でしょう。

──電池のエネルギー密度を向上するためには、何がポイントになってくるのですか?

一般的な電池では、負極活物質から放出された電子が、正極活物質に渡される。空気電池の正極活物質は空気(中の酸素)なので、従来よりも圧倒的にエネルギー密度が高くなる。

簡単に電池の構造を説明しておきましょう。電池のマイナス極には負極活物質、プラス極には正極活物質が入っています。負極活物質は電子を放出して酸化され、正極活物質は電子を受け取って還元されます。これが基本的な構造です。電池のエネルギー密度は、活物質の比容量(単位質量当たりの静電容量)によるところが大きいと言えます。

現在のリチウムイオン電池では、負極にカーボン(炭素)、正極はコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、マンガン酸リチウムなどが用いられています。

負極活物質の比容量はカーボンで372mAh/g、スズの合金が理論上994mAh/gくらい。金属のシリコンとリチウムなら、もっと上、それぞれ4000mAh/gと3800mAh/gを達成できることがわかっています。負極に関しては、今よりも1桁高い密度を実現できる材料の候補はあるのです。

ところが、正極活物質に関しては、せいぜい200〜300mAh/gどまりで、これ以上大きな比容量の候補材料がありません。負極、正極ともに高い比容量の活物質がないと、エネルギー密度の大幅な向上は難しいと思います。

これを解決するために研究されているのが、さまざまな「ポストリチウムイオン電池」で、産業技術総合研究所では「リチウム-銅電池」と「リチウム空気電池」の開発を行っています。今回お話するのは後者の「リチウム空気電池」です。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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