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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

シロアリとパンダで、一石二鳥の生ゴミ処理を実現(2)

2009年10月30日

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パンダのキャラクター文具を見せながらスピーチを行う田口博士。サイコロ状のスポンジは副賞。何かの冗談らしいのだが、田口博士も意図を測りかねている(写真提供:田口文章)。

メタンの代わりに水素が出た

──博士の研究は真面目なものですが、やはり「パンダの糞」を使うという点が、イグ・ノーベル賞主催者の琴線に触れたんでしょうね。どうして、このような研究をされることになったのでしょう?

僕は元々ウイルス学を専門としており、ガンの原因となるウイルスについては世界に先駆けて研究してきたという自負があります。それが20年ほど前、ひょんなことから、環境分野の研究もまかされることになりました。その時に、建設系の大手企業がメタン発酵について研究してくれないかと依頼してきたのです。バイオマスからメタンガスを効率よく発生させ、発電などに利用しようというもくろみだったようです。ちょうど研究室にいた学生もメタン発酵に興味を示したこともあって、じゃあ試しにやってみようかと。

ところがちょっと調べてみると、メタン発酵というのは簡単なようでなかなか難しいことがわかってきました。ドブから自然にメタンガスが沸いてくるのはよく見られる光景ですが、こういうシステムを実験的に作るのは細菌の専門家にとっても困難で、100年近くもメタン発酵の研究は完成寸前で停滞したままだったのです。

──最初は、メタンガスを発生させる仕組みを作ることが目標だったのですね。

そうです。5人ほどの研究チームを作って取り組んだのですが、最初の1年間は泡の一粒も出ませんでした。最初使っていたのは標準サイズのフラスコでしたが、サイズが小さいのが問題かもしれないと考え、2年目からは30Lの特大フラスコを使うことにしました。

2年目のある日、学生の一人が「泡が出ました!」と言いながら駆け込んできました。フラスコの中を見てみると、細かい泡が何本も数珠のように連なって発生しているではありませんか。炭酸ガスでないことはすぐわかりました。二酸化炭素はすぐに水に溶けてしまいますから。

ようやくメタンが出たのかと思い、発生した気体を採取して火を付けてみることにしました。窒素ガスであれば燃えないはず、燃えれば気体のおおよその性質がわかります。

メタンなら黄色い炎がチロチロと燃えるのですが、この気体に火を付けると、腰を抜かすような大きな音を出して爆発しました。驚きましたね。気体は水素だったのです。

──メタンガスは発生しなかったのですか?

企業から依頼のあったメタン発酵については3年間研究しましたが、うまく行きませんでした。しかし、バイオマスから水素を発生させるのは有望そうだと、途中から並行してこちらも研究を進めることにしました。

ある時、Natureだったかに掲載されていた短い論文が目に留まりました。土壌科学の研究者が書いたもので、熱帯雨林上空の空気は組成が他の地域と異なるというのです。通常は存在しない気体、例えば水素やメタンなども多く含まれていると書かれていました。

なぜ、熱帯雨林の上空には水素が多いのだろう。ふと思いついたのが、シロアリです。熱帯には数多くのシロアリが生息しています。シロアリが枯れた樹木を食べて、水素のように軽い気体を発生させているのではないだろうか?

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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