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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

太陽熱でビルを冷やす「ソーラー空調システム」の仕組み(3)

2009年10月 9日

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太陽熱を使えば、エネルギー消費量を20%削減できる

──太陽熱を使うことで、どれくらいエネルギーを節約できるものなんですか?

実験に使っている吸収冷温水機は廃熱を高効率で利用できるように開発されたタイプで、ガスだけを使った場合、281kWのエネルギーを消費して422kWの冷房能力を発揮します。つまり、422/281=1.5ということで、「冷房COP」は1.5になります。ちなみに、標準的な吸収冷温水機の冷房COPは1.1程度です。(※COPは、入力したエネルギーに対して、どれだけのエネルギーを出力できるかを示す)

実験に使っている集熱器の面積は139m²で、ピーク時には100kWの熱を集めることができます。100kWの太陽熱による冷房能力は80kWに相当するため、ガスによる冷房能力は342kW、消費するのは228kWで済みます。422/228=1.85で、冷房COPは1.85にまで向上します。太陽熱をフルに活用できれば、冷房をすべてガスで行った場合に比べて、ガスの消費量を20%減らせるわけです。また、屋上にさらに多くの集熱器を施設できるとすると、この削減効果も比例的に拡大していきます。

冷暖房の両方について、既存の標準的な吸収冷温水機(冷房COP1.1)と比べると、今回実験したシステムは、太陽熱利用と高効率機器の導入効果の合成により、エネルギー消費量を年間で20%削減すると試算しています。20%のうち12%は太陽熱によるもので、残り8%が熱利用の高効率化によるものです。

太陽熱をフルに利用できれば、ガスの使用量を20%減らすことが可能だ。

──どういうビルに導入できるのでしょうか? 一般家庭でも使えますか?

今回実験したビルの総床面積は4000m²で、集熱面積は139m²ですから、だいたい面積比でいうと3.5%。床面積に対して、おおむねこの程度の集熱面積を取れるビルなら、十分に太陽熱の効果はあります。つまり、吸収冷温水機の容量に対して一定の集熱面積を取れるビルに向いているシステムということができます。

一般家庭については、熱エネルギー需要のうち給湯の割合が高く、元々冷房に消費するエネルギーの割合は小さいのです。そのため、太陽熱を利用した空調システムは、オフィスビルなどの業務用が中心になります。

今後の予定ですが、2010年3月まで実証実験を行い、その後商品化を進めていくことになっています。現在の課題であるシステムの低コスト化に対しては、集熱器や施工費のコストダウンを進め、将来的には5〜10年程度で元が取れる価格設定にしたいと考えています。そのためにも、普及促進を支援する補助金制度の整備には、強い期待を寄せるところです。

研究者プロフィール

本間 立(ほんまりつ)

業務用空調熱源機である吸収冷温水機やコージェネレーションの廃熱利用機器・システムの開発・技術支援・エンジニアリング、および太陽熱利用の空調システムのシステム開発に従事している。これまでの開発実績としては、現在の主流となっている高効率ガス吸収冷温水機や、高効率コージェネレーション廃熱利用機器などがある。ソーラー空調システムの実証についても、これまでに複数物件の担当実績を持つ。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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