太陽熱でビルを冷やす「ソーラー空調システム」の仕組み(1)
2009年10月 9日
(これまでの 山路達也の「エコ技術者に訊く」はこちら)
太陽熱で冷却できる仕組みとは?
──東京ガスでは、太陽熱を利用して冷暖房に利用するソーラー空調の実証実験を行っているそうですね。ガス会社が、太陽熱を積極的に利用していくことになった背景は?
現在世界的に太陽エネルギーを利用しようという動きが進んでいますが、日本で注目を浴びているのは太陽光発電です。ところがエネルギーの年間変換効率は、太陽光発電が10〜15%、太陽熱が40〜50%と、太陽熱の方が格段に効率がよいのです。世界的に見ると、太陽熱の普及率は太陽光発電の10倍以上に達しています。
もちろん、電気は使い勝手がよいというメリットを有しているのも確かですが、年間変換効率を考えると、熱での利用が適している条件が整っている物件に対しては、太陽熱利用システムを推進することがよいと考えています。また、私たちは熱を扱う技術に関して蓄積がありますから、太陽熱と親和性が高かったという面もあります。
──太陽熱で冷房を行うというのは、不思議な感じですね。
熱で冷房を行う「吸収冷温水機」は40年以上前からあり、すでに地域冷暖房などの大きな施設から中小規模の建物まで幅広く使われています。熱を加えることで冷やせる原理を簡単にご説明しましょう。
冷房を入れると、室内機から冷たい風が吹き出してきますね。室内機の中には、冷水の循環するパイプが通っており、それが部屋の空気から熱を奪うのです。7℃だったパイプ内の水は、部屋の空気から熱を奪うことで15℃にまで上昇します。この15℃になった水を何とかして7℃に下げる、それが吸収冷温水機の目的です。
吸収冷温水機の内部は、(1)蒸発器、(2)吸収器、(3)再生器、(4)凝縮器に分かれています。
部屋の空気で暖められた水は、まず(1)の蒸発器に入ります。蒸発器の中では、上から水がポタポタ垂れてきて、その水が冷水が循環するパイプに当たると気化して、その時に蒸発熱を奪うのです。これで、15℃だった水温は、7℃に下がります。打ち水をすると、すっと涼しくなるのと同じことです。
1/100気圧だと、水は約5℃で沸騰する
──5℃程度の温度で水が蒸発するのですか?
気圧が低いほど、水の沸点は低くなります。富士山の山頂で米を炊くと、低い温度で沸騰してしまうために、ご飯に芯が残ります。同様に、蒸発器の中は1/100気圧になっているため、5℃でも水は沸騰して蒸発するのです。
(1)で蒸発した水は水蒸気となり、今度は(2)の吸収器に入っていきます。吸収器では、臭化リチウムの濃い水溶液がしずくとなって落ちてきます。臭化リチウム水溶液は、塩水と同じような性質を持っていると考えればよいでしょう。水蒸気で満たされたところに、臭化リチウム水溶液を垂らすと、水分を吸収して薄くなります。濃度が薄くなった臭化リチウム水溶液は水分を吸収できなくなりますから、再度濃度を高めてやらないといけません。そのために、ポンプで(3)の再生器に送られます。
(3)の再生器では、臭化リチウム水溶液に熱を加えて濃度を高めます。
──ここで熱が必要なんですね。
はい。熱源は、ガスバーナーでも太陽熱でもかまいません。80℃程度の熱水を用意できれば、その熱で臭化リチウム水溶液を再生できます。
再生器で蒸発した水は、(4)の凝縮器に入ります。凝縮器の中は冷却水のパイプが通っており、このパイプに水蒸気が触れると冷やされて液体の水に変わります。この液体の水が、(1)の蒸発器でパイプを冷却するのに使われるのです。
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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」
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