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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

微生物が田んぼを電池に変える(4)

2009年9月 9日

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研究室の実験装置では、光合成微生物と電流発生菌の最適なペアを調べている。

自然との共生から生まれるブレークスルー

──微生物を利用した発電によって農業の姿はどう変わりますか?

それが言えるようになるのはまだまだ先の段階でしょうね。微生物太陽電池にしても、それでトラクターが動かせるようになるわけではありません。しかし、自然との共生関係を活かすという考え方が、他の分野のアイデアと結びついて、ブレークスルーを起こすかもしれないと期待しています。

私たちは農業で食物を作り、それを食べていくしかないのです。今までは化石燃料という密度の高いエネルギーを利用できましたが、これを使えなくなったらどうするのか真剣に考えなければいけません。そのためにも、微生物太陽電池のような方法を提案して、世論を喚起したいのです。

──今の農業は、ある意味、石油を燃やして野菜を作っているようなものですからね。

その通りです。最近は、工場で工業製品を作るように作物を作る「植物工場」のビジョンが現実味を帯びてきました。確かに、ある段階において植物工場は必要なものだと思いますし、私自身も関わってはいますが、あれが究極の姿だとはまったく考えていません。やはり、希薄な自然のエネルギーを使うシステムは、さまざまな分野で研究していくべきです。

──それにしても、微生物同士の共生関係で電流が発生するというのは面白いですね。自然には他にもまだ知られていない反応がたくさんあるのではないでしょうか?

例えば、海底に生息する微生物は、地殻変動のエネルギーを熱や硫黄化合物の形で取り込んで利用していますし、こうした海底のエネルギーシステムは非常に面白い分野です。

ほかにも、川の中には光合成とは違うやり方で太陽光を利用している微生物もおり、私たちの研究室のメンバーが研究を始めています。

研究者プロフィール

橋本和仁(はしもとかずひと)

1955年北海道生まれ。1980年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。分子科学研究所助手、東京大学工学部講師、助教授を経て1997年同大学先端科学技術センター教授。2004年より現職。専門は光触媒、光磁性材料、有機太陽電池など光化学を基礎とする機能材料学。3年ほど前より微生物を使うエネルギー変換の研究を開始。現在JST/ERATO「光エネルギー変換システムプロジェクト」総括責任者。

渡邊一哉(わたなべかずや)

現職:科学技術振興機構ERATO橋本光エネルギー変換システムプロジェクト微生物グループリーダー、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。1987年東京工業大学理工学研究科を卒業後、東燃株式会社に入社。1997年に海洋バイオテクノロジー研究所に移動、2008年から現職。専門は応用微生物学で、微生物を環境浄化やエネルギー生産に利用する技術の研究開発を行っている。

中村龍平(なかむらりゅうへい)

1976年北海道生まれ。2005年大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。Lawrence Berkeley National Laboratory博士研究員を経て2006年より東京大学大学院工学系研究科助教。専門は半導体電気化学、微生物電気化学を基礎とする光エネルギー変換材料。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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