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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

微生物が田んぼを電池に変える(3)

2009年9月 9日

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生ゴミから直接発電する微生物燃料電池

──これは深海の環境を再現したということなんですね。

次は海ではなく、田んぼから泥を取ってきて、酸化鉄を入れてみました。エサの有機物を与えてやると、酸化鉄から電子を受け取れるタイプの微生物の割合がどんどん増えていき、それに伴って発生する電流も増えていきました。こういう環境に適応した微生物が助け合いながら、生き延びようとしているのです。この発見にはかなり興奮しましたよ。

今のところ、1立方メートルの実験装置から130Wの電力を取り出せます。まだ効率がいいとは言えませんが、エサとしては廃棄物、例えば焼酎やビールを造った後の廃液など、処理に困っているものを与えればよいのです。電気を取り出すと有機物が分解されてきれいな水になりますから、廃液処理装置として使えます。

──生ゴミ処理にも使えるのでしょうか? 家庭用の生ゴミ処理装置としては堆肥を作るコンポストもありますが、どう違うのでしょう?

生ゴミも処理できるという点で、微生物燃料電池はコンポストと似ています。

生ゴミにはまだエネルギーが残っていますから、コンポストで分解が進むと熱が発生します。一方、微生物燃料電池は熱くならず、代わりに発電します。熱は拡散していくためエネルギーとしては利用しにくいのですが、電気として取り出せれば利用しやすくなります。

また、コンポストとは違いますが、バイオマスを利用したメタンガス発電では、有機物を分解してメタンガスを作り、それを燃やした熱で水蒸気を作り、タービンを回して発電しています。これに比べて微生物燃料電池は、ボイラーやタービンがいらないので、装置を小型化できるというメリットがあります。

──発電効率の向上がカギですね。

今は1m³の装置で130Wですが、家庭用として使うなら1000Wは出力できるようにしたいところです。これで生ゴミ処理の機能もあれば、十分に競争力のある商品になるでしょう。処理効率を上げて、カスがあまり出ないようにしていきたいですね。

まだ電流発生菌が発電する仕組みにはわかっていない点も多いため、現在この解明を進めており、電極の改良も行っています。数年以内には1000Wを達成したいと考えています。

田んぼの水に光を当てると、電流が発生した

水田に電極を差し、発生した電流を計測する。

──もう1つの微生物太陽電池の仕組みはどのようなものでしょう?

光が当たると光合成を行ない、電極に電子を渡せるような微生物がいればよいのですが、残念ながらこういう微生物は知られていません。適当な電子伝達物質を混ぜれば可能ですが、人工的な物質は使わないようにしたいのです。

それではどうするか。こちらも微生物燃料電池の場合と同じように考えました。自然界にはいろんな微生物がいるから、助け合って生きていけるのではないだろうか。

そこで、東大構内にある三四郎池や、温泉から水を採取してきました。これらの培養液には窒素やリンは加えますが、エサの有機物は加えません。培養液に光を当てれば、この条件下で生きていけるエコシステムができるだろうと考えたのです。実際、光を当てると電流が発生しました。

培養液を調べると、少なくとも2種類の微生物が共生していることがわかってきました。1つは光のエネルギーから有機物を作る光合成細菌。もう1つは、有機物を取り入れて電流を発生させる電流発生菌です。光合成細菌の作った有機物を、電流発生菌が取り入れて電流を生み出していたのです。

太陽エネルギー変換効率は、三四郎池から採取した培養液で0.02%、温泉で0.04%。人工の太陽電池に比べると、はるかに低い効率です。しかし、重要なのは、自然の共生関係を活かすことで、微生物の余剰エネルギーを取り出せたということにあります。

水田を電池として使えないか実験してみたところ、やはり電流が発生しました。イネが光合成を行い、根から有機物を出し、それを使って微生物が電流を発生させている、つまり太陽電池として機能していると考えられます。この場合の発電効率は0.01%とまだまだですが、自然の共生関係を利用して発電できた意義は大きいと思います。

──実用化に向けてのロードマップはいかがでしょう?

微生物燃料電池は十分実現可能ですが、微生物太陽電池についてはまだ実用化云々を考える段階ではありません。今後さらに新しい知見を取り入れ、発電効率が今の100倍、1〜2%になってきたら、初めて応用的なことを考えられるでしょう。

──微生物燃料電池、微生物太陽電池のハイブリッドにするといったこともできそうですか?

可能性はあると思いますよ。光合成微生物の種類によって、作り出す有機物も異なりますし、それを受け取れる微生物も変わってきますから、現在は最適なペアを調べているところです。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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