微生物が田んぼを電池に変える(2)
2009年9月 9日
──電流を発生させる菌というのは不思議ですね。
電流発生菌自体は100年ほど前に発見され、そこら中の地中や水中、どこにでも見つかります。電流発生菌から電気を取り出す試みも行われましたが、電流密度が低いため実用にはならず、それほど研究は盛んではありません。
電流発生菌に有機物を与えると、流れる電流が急速に増え、あるところまで来ると一定になります。さらに電流発生菌を増やしても、発生する電流は変化しません。電極に電流発生菌が取り付いているのですが、電極の面積は限られているため、離れた場所にいる菌は電極に電子を渡すことができないのです。
微生物同士の共生関係を活かせば、電流が増える
──今なら、遺伝子工学を使ってもっと電流を出すように改良することもできたりするのでしょうか?
米国では実際にそういう研究も始まっていますし、私たちの研究室でも研究を進めています。こうした研究手法は、分子生物学を使っているという意味で、21世紀型です。しかし、自然との共生という方向からは離れていくように感じます。
そこで、電流発生菌の生息環境について考えてみることにしました。実験室での研究は、動物園のようなもので、元々の環境とはまったく異なっているはずですから。
例えば、代表的な電流発生菌であるシュワネラ菌は、海底火山の地殻から採取されました。地球科学の研究者に訊くと、深海から微生物を採取すると必ず酸化鉄や硫化鉄がまとわりついてくるのだそうです。
そこで、シュワネラ菌のいる培養液に酸化鉄のナノコロイド(酸化鉄の微少な粒子が液体に溶け込んだもの)を加えたところ、電流の発生量がぐんと増えました。しばらくすると電流は減り始めますが、エサの有機物を追加すれば、また電流が出るようになります。微生物だけの場合に比べて、50倍以上の電流が発生するようになりました。
──いったい何が起きたのですか?
酸化鉄ナノコロイドが糊、および電子伝達を仲介する物質として働いているものと考えられます。微生物の放出した電子が酸化鉄ナノコロイドに移り、酸化鉄ナノコロイドからまた微生物に移るというホッピングです。これによって、電極から離れたところにいる電流発生菌も電子を受け渡すことができる、つまり呼吸して生き延びられるようになったのでしょう。
さらに、鉄イオンと硫黄イオンを加えると、微生物が硫化鉄を作り始め、電流の発生量は200倍になりました。今までも微生物が硫化鉄を作ることは知られていましたが、これがエネルギー変換に関係することは知られていませんでした。
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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」
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