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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

微生物が田んぼを電池に変える(1)

2009年9月 9日

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自然との共生は、さまざまな科学分野での大きなテーマになりつつある。東京大学 先端科学技術研究センター、橋本和仁教授のチームが研究を進めているのは、田んぼなどに棲む微生物から直接電気を取り出せる燃料電池と太陽電池だ。将来は、田んぼで発電が行えるようになるのだろうか?
プロジェクトリーダーの橋本教授、および渡邊一哉特任准教授、中村龍平助教に詳細をお聞きした。

微生物燃料電池の実験装置。有機物を与えると、電流が発生する。

自己メンテナンスできることが生物の強み

──微生物を使って発電する研究を行われているそうですね。なぜ微生物発電を行おうと考えたのでしょう?

20世紀のサイエンスは主として現代物理学をベースとし、エネルギー源としては化石燃料を用いて、人類にとって便利な社会を築いてきました。しかし、21世紀になって、環境やエネルギー、資源の持続性に疑問が持たれるようになり、自然と共生できる新たな指導原理に基づいた科学技術の重要性が高まっています。

たんに太陽エネルギー変換効率ということでいえば、現在の太陽電池は10%以上、タンデム型なら40%以上に達しています。植物の光合成は、条件によっても異なりますがせいぜい5%程度。人工の太陽電池は、効率の上では植物を上回っているわけです。だからといって、太陽電池が植物を超えたということにはなりません。

──植物は勝手に成長していきますしね。

そう、生物の本質は、自分で成長し、自分自身をメンテナンスできるというところにあります。私の究極的な目標は、成長する太陽電池を作ることですが、これはまだ夢物語ですね。

さて、微生物は酸素呼吸をしている時、外部から取り入れたエネルギーの1/3だけを使い、残りはある意味で外に捨てているといえます。微生物が使ったエネルギーの残りを人間がもらおうというのが元々の発想です。これを実現するために、微生物燃料電池、微生物太陽電池という2つの研究を進めています。

電流発生菌は私たちの身近にいる

──それぞれどういう原理で発電するのでしょう?

普通の燃料電池は、水素を入れてやれば酸素と反応して発電します。メタノールから水素を作り、それを使って発電するタイプもあります。一方、微生物燃料電池は、エサとなる有機物を与えてやれば発電します。

有機物には高いエネルギーが含まれています。私たち人間はこれを食物として取り込み、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー通貨に変換し、生きているのです。有機物に含まれていたエネルギー準位の高い電子からエネルギーを取り出しているわけで、最後にはエネルギー準位の低くなった電子をどこかに捨てる必要があります。

この電子を酸素に渡して、二酸化炭素と水を生成する過程こそ、私たちが行っている呼吸です。酸素がないと人間は窒息死してしまいますが、それはエネルギー準位の低い電子を捨てる場所がなくなってしまうからだともいえるでしょう。

微生物でも基本的にはまったく同じことが行われています。ただし、電子を渡す先は酸素でなくともかまいません。二酸化炭素に電子を渡すと、メタンが生成されます。牛がゲップを出すのは、酸素がなくとも生きられる微生物がメタンを作るから。田んぼの底からぶくぶく泡が出てくるのも同じ反応です。

二酸化炭素に電子を渡すということは、酸素に渡す場合に比べてまだまだエネルギーが残った状態で渡していることになります。先にも述べたように、酸素呼吸では微生物は取り入れたエネルギーのうち、1/3程度しか利用せず、残りの2/3を捨てているのです。

面白いことに、電子を二酸化炭素ではなく、電極に直接渡せる微生物もいます。それが、電流発生菌です。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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