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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

カーボンナノチューブでできた世界で最も「黒い」物質(2)

2009年5月19日

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紫外線から遠赤外線まで、あらゆる光を吸収する

赤外域5〜12μmの放射率(≒吸収率)を示したスペクトル。従来の材料は、波長が変わると吸収率が大きく変動する。しかし、カーボンナノチューブ黒体(グラフ中の赤線)は、どの波長でも放射率が一定に近い。

──今回のカーボンナノチューブ黒体は、どんな性能を実現したのですか?

紫外線から可視、遠赤外線までの広い波長範囲で試験を行ったところ、その全てで光を一様に98%以上吸収することがわかりました。今後は、電波の領域についても測定できればと考えています。

──電波も吸収するとしたら、ステルス技術になるということですね!

その可能性はありますね。光、電波の遮蔽材料としてトップクラスになると思います。これが、カーボンナノチューブ黒体のサンプルです。

──それにしても本当に黒いです。黒すぎて表面の様子がどうなっているのかよくわかりません。(カーボンナノチューブ黒体を撮影しながら)ストロボを焚いても、全然反射しないんですね。

産総研内の放射率測定の専門家が、カーボンナノチューブ黒体の放射率(光の放射率と吸収率はほぼ同じ値になる)を測定したのですが、最初は装置が故障したのではないかと思ったそうです。2、3回測定を繰り返して、ようやく納得したとか。

ナノチューブが光を捉えて逃がさない

──どうしてこんなに黒いというか、光を吸収するのでしょう?

元々カーボンナノチューブ自体が黒くて、光を吸収しやすいということが1つあります。その黒さを最大限発揮できるのが、カーボンナノチューブ黒体のもつ構造です。1本1本のカーボンナノチューブが、基板からほぼ垂直な向きに揃って並んでいます。このため、光が内部に入り込みやすいのです。

──表面が凸凹だからですか?

カーボンナノチューブ黒体の表面断層の顕微鏡写真。まるで森のように、カーボンナノチューブが立ち並んでいる。

いえ、表面が凸凹だと光があちこちに散乱しますから、反射することに変わりはありません。カーボンナノチューブ黒体の場合は、光を反射させずに中に入り込ませるのです。中に入り込んだ光は、チューブの隙間で反射を繰り返して減衰していきます。その過程で、1本1本のカーボンナノチューブが光を吸収して熱に変換するというわけです。このため、カーボンナノチューブ黒体の厚みは、約10μm以上必要になります。これ以上薄いと、光が通り抜けてしまうのです。

──しかしそれなら、光の波長が違うと吸収率も変わってくるような気がしますが。

実はそこが不思議で、まだ詳しく仕組みがわかっていないのです。複数の原理が働いている可能性もありそうです。たとえば、カーボンナノチューブは巻き方(カイラリティー)が1本1本異なっています。それが原因で吸収しやすい光の波長や吸収の仕組みが少しずつ違っています。また、すべてのカーボンナノチューブが完全に垂直に配向しているわけでもありません。様々な傾斜角と方向をもち、空隙と複雑に入り組んでいます。こういういろんな状態が複雑に混じり合っていることが、光の波長が変わっても吸収率がほとんど変化しない秘密ではないかと推測しています。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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