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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

カーボンナノチューブでできた世界で最も「黒い」物質(1)

2009年5月19日

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世界で最も「黒い」物質とは何だろう? 独立行政法人産業技術総合研究所 計測標準部門の水野耕平博士らが開発した「カーボンナノチューブ黒体」はあらゆる波長の光の97〜99%を吸収できる、この世で最も「黒い」物質だ。ひょんなことから生まれたこのカーボンナノチューブ黒体は、環境や計測、映像機器などに応用できる可能性がある。開発者の水野耕平博士に詳しい話をお聞きした。


上が今回開発された「カーボンナノチューブ黒体」。ストロボを焚いているのに、光がまったく反射していない。下は、金属基板に無電解ニッケルメッキをしたもの。

「黒体」の名に値する初めての物質ができた

──「カーボンナノチューブ黒体」を開発されたとお聞きしました。そもそも黒体というのはなんでしょう?

あらゆる波長の光を完全に吸収できる、吸収率1.0の物体を黒体と言います。こういう完全黒体は現実には存在しないのですが、この「カーボンナノチューブ黒体」は、実用上黒体と呼んで差し支えないほど広い波長帯域において一様に高い吸収率を示すことができる材料です。

──これまで吸収率が高かったのは、どんな材料ですか?

光の吸収率が高い材料としては、黒い顔料で塗装したものや、メッキ、化成処理を行ったものが一般的でした。金属をメッキ液に浸けて腐食させると、表面に酸化膜などが形成されて黒くなるのです。こうした従来材料の吸収率は一般的に0.97程度で、しかも光の波長によって吸収率にばらつきがありました。

──光を吸収する材料はどんなところで使われているのでしょう?

カメラのような精密光学機器の内面に使って光が反射しないようにするほか、太陽熱の集熱や赤外線センサーにも使われています。

あとは、発熱体、ヒーターですね。光を吸収しやすい材料というのは、蓄えた熱を放射(熱ふく射)しやすい性質を併せもっています。たとえば、ストーブの金網が黒く塗られていることがあります。表面の黒い材料を加熱すると、赤外線として効率よく熱を放出するようになります。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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