このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

「都市鉱山」に至る道が見えてきた(2)

2008年12月29日

  • 前のページ
  • 2/3
  • 次のページ

ボールミルで金属資源が簡単に取り出せた

(左)破砕機を使って、携帯電話を数cm角程度に粗く砕いておく。
(右)携帯電話の破片とボールをいっしょに投入し、ボールミルを回転させる。

──どのような手法を開発されたのでしょうか?

工業製品を構成している材料は、モノの外形を保つ構造材料と、光や電気を出す機能性材料の2つに大きく分けられます。ICチップやコンデンサーなどの機能材料は、プラスチックやアルミの枠といった構造材料に守られているというわけです。

みんなが欲しいのは機能材料の中に含まれる貴金属やレアメタルで、これまでは構造材料から機能材料をはがして金属を取り出そうとしていました。しかし、丈夫な構造材料はそのままにして、機能材料を粉にして金属を取り出せばよいのではないか。

そう考えて発表したのが、洗濯機くらいの大きさのボールミルを用いた手法です。携帯電話を1台入れてボールミルを作動させると、基板の板の部分やアルミ、プラスチックの枠はそのまま残り、メッキやチップは細かく砕かれて粉になりました。この粉に金や銀といった貴金属や、錫、パラジウムなどのレアメタルが含まれています。

基板の配線に使われている銅は、大きな破片の方に残ります。一番価値があるのは金ですから、まず金で利益を上げ、その利益を使って基板に含まれる銅を取り出せばよいでしょう。

──ボールミルに入れるだけでこんな風に分離できるのですね。

このサイズのボールミルに携帯電話1台を入れた時の最適条件は見つけました。サイズの異なる複数のボールを組み合わせて使います。あるボールは表面にある出っ張りを砕くため、角張ったボールは表面に張り付いているものをそぎ落とすために使うという具合です。

現在は550Wのボールミルに携帯電話1台を入れて、2時間回しています。この手法を使うことで、携帯電話1台から金属資源を取り出すためのコストは9.7円になりました。

──携帯電話より大きな、例えばDVDプレイヤーのようなものでも大丈夫ですか?

(左)基板からチップが分離した。
(中)金メッキも摩耗していることがわかる。
(右)プラスチックや金属の枠は、あまり細かくならずに残る。

ボールミルに入らないゴミは、普通の破砕機でつぶしてから入れればよいだけです。

──取り出した粉には、どのくらいの割合で金が含まれているのでしょう?

だいたい金が0.9‰(パーミル)、つまり粉1kg当たり1g弱の金が含まれていることになります。これは、天然の金鉱石に比べて数百倍の含有量です。

──実用化にはどのような課題がありますか?

実用化するためには、装置を大型化して効率を上げる必要があります。ボールミルのサイズが大きくなると、回すためのエネルギーも大きくなりますから、それがどの程度になるかをこれから実験していきます。

一度に処理できる台数を10倍にできても、必要なエネルギーが100倍になったら意味がありません。規模を10倍にして、必要エネルギーが12、3倍で収まるなら十分商用化できるでしょう。実験ではボールミルを使いましたが、より効率的な方法があればボールミルにこだわることはないと思っています。

  • 前のページ
  • 2/3
  • 次のページ

前の記事

次の記事

山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

過去の記事

月間アーカイブ