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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

「都市鉱山」に至る道が見えてきた(1)

2008年12月29日

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高度な電子機器には、金などの貴金属やレアメタルが欠かせない。日本はこうした金属資源の多くを海外に頼っているのが現状だ。しかし、使用済みの電子機器からこれらの金属を取り出せたらどうなるか? 日本は、巨大な「都市鉱山」を持つ資源大国となりえる。物質・材料研究機構 材料ラボ ラボ長の原田幸明博士は、電子機器から低コストで「都市鉱石」を取り出すリサイクル手法を開発したという。

日本は世界有数の資源大国だった!

実験に使用した遊星ボールミル。装置全体は小型の洗濯機くらいの大きさだ。

──2008年1月、物質・材料研究機構は「わが国の都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵」という発表を行い、注目を浴びました。

金については、世界の現埋蔵量42000トンに対し、日本の都市鉱山は約6800トンで約16%。ほかにも、銀は22%、インジウム16%、錫11%など、世界埋蔵量の1割を超える金属が多数あることがわかりました。ちなみに、世界的に見ても、金や銀は現埋蔵量よりすでに採掘された量の方が多くなっています。

みなさんは驚かれたようですが、考えてみれば当たり前の話です。日本は世界中から資源を集めてモノを作り、経済発展をしてきたのですから。私は、こうして蓄積された資源をきちんと利用していきましょうと当たり前の提案をしただけです。

ただし、資源があることはわかっていても、埋蔵金のようにパッと取り出せるわけではありません。再利用できるのは、そのうちのごくわずかです。

例えば、鉄。日本国内にある鉄資源の量は正確に計算されており、ビルや廃屋などの形で蓄積された鉄のうち、毎年5%程度がリサイクルできています。都市鉱山の金が16%といってもそれをまるごと利用できるわけではありませんが、それでも鉄と同程度にリサイクルできれば現埋蔵量の0.8%はまかなえる計算です。

リサイクルで儲けるという発想が必要

──どうして今までは、都市鉱山に含まれる金銀やレアメタルをあまり活用してこなかったのでしょう? 技術的なハードルが高かったからですか?

技術というのは、儲けがあるところ、つまりビジネスモデルが成立しているところへ優先的に投入されます。

その観点から言うと、日本のリサイクルは廃棄物処理の意識が強すぎました。廃棄物処理場がいっぱいになると世の中がゴミであふれかえってしまう、それは困るからリサイクルしてゴミを減らそう。そういう考え方でリサイクルを行っていたのです。家電リサイクルのように、国や自治体、業界、消費者がコストを分担していました。

その一方、都市鉱山の資源を有効活用するには、貴重な資源を工夫して取り出し、それによって儲けを出さなければいけません。廃棄物処理とは、異なる論理が求められるのです。

──昔は、お金を出してくず鉄やガラスを引き取る業者がいました。

鉄とガラス、紙は、資源として再利用しやすく、リサイクルで儲けられる仕組みが日本でも整っていました。

リサイクルで儲けるという意味で言えば、現在の中国や米国の方が進んでいる面もあります。大量に捨てられるモノから、お金にできる資源だけを上手にかき集められれば、ビジネスが成立するのです。ただ、それは大量にモノを捨てる経済を容認しているからこそ可能なわけで、日本ではなかなか難しいでしょう。日本の場合は、量に頼れない分、技術力で勝負する方法を考えないといけません。

──現状のリサイクルでは、資源を取り出すためにどれくらいのコストがかかっているのでしょう?

端末の基板を取り出すのに1台当たり50円強、レアメタルが多く含まれるICチップまで取り出すとなると120円程度、これに加えて廃棄物の処理コストがかかります。1台の携帯電話に含まれている金はだいたい90円分、その他の金属を含めて120円ですから、ほとんど利ざやがない状態です。

リサイクルで利益を上げている企業もありますが、そういうところは、処理に手間がかからず再利用しやすい材料(工場の中間廃棄物など)を仕入れるルートを持っています。携帯電話のように一般消費者向け商品だけを処理しようとするとビジネスとして成り立つはずがありません。

けれど、廃棄物を処理することが第一義になっていたことで、みんなリサイクルはこういうものだと思い込んでいたのです。場合によっては、人件費の安い中国に持っていって基板やチップを取り外せばいいという考え方をしていました。

──一般消費者はリサイクルにどれだけのコストがかかっているか、意識しませんね。

最後に金銀を取り出せば儲かるのだから、その業者までボランティアで端末を届ければいいとか、業者が端末を買い取ればいいと思っている人は少なくないでしょう。しかし、実際には取り出すにも廃棄物を処理するにもコストがかかります。

天然鉱山の場合、掘り出した鉱石をそのまま製錬所に持っていくことはほとんどありません。例えば、日本は外国から大量の銅を輸入していますが、銅鉱石をそのまま輸入しているのではなく、選鉱(不純物などを除く処理)を経てから輸入しています。そうでないと、銅1トンを作るためには銅鉱石が300トン必要ですから、とても船で運ぶことはできません。ちなみに、ステンレスに使われるニッケルの価格は、鉄より高くなっています。ニッケルは選鉱が難しく掘り出した鉱石をそのまま溶かして製錬する必要があるので、どうしても高く付いてしまうのです。

携帯電話などから資源を取り出して利用する場合にも同じことが言えます。製錬しやすいように付加価値を高め、それを製錬所が買い取るという流れを作り出さないと、資源リサイクルはうまく回らないでしょう。

そのため、基板やチップの取り出し部分に技術を投入してコストを下げればよいのではないかと考えました。非常に単純で素直な発想です(笑)。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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