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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

灼熱のアフリカを潤す「植物スプリンクラー」(3)

2008年12月 4日

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キマメ(右端)に近づくほど、トウモロコシの生育状況(背丈、緑色の濃さ)がよくなっていることがわかる。

このザンビアの写真は、キマメを植物スプリンクラーとしてトウモロコシを育てている例です。キマメに近づくほど、トウモロコシの草丈が高く、緑色も濃くなっていることがわかります。緑色が濃いということは、窒素が多く行き渡っているということです。

この窒素が、キマメの根から放出された水分に含まれているものか、あるいは表層近くの根が分解された間接的な結果かはまだ正確なところはわかっていません。いずれにせよ、植物スプリンクラーの近くは水分だけでなく、栄養分も豊富になっています。

研究を無償で公開し、世界中の人が使えるように

研究室にある実験装置で、15種類の深根性植物を育成している。現在は、植物中の塩類がどの程度放出されるかを調べているという。

──今後の計画はいかがでしょう?

この研究は平成17年度産業技術研究助成事業(NEDO技術開発機構)の支援を受けており、3年間の実証実験が今年で終了しました。現在実験結果を取りまとめており、今後はWebサイトなどを通じて情報を無償で公開する予定になっています。世界中の人に使ってもらい、いただいたフィードバックをデータベース化しようと考えています。

──どういう成果が得られるか、楽しみです。

ただ、この技術に過剰に期待していただくのはどうかと思います。というのは、自然というのは1つの技術だけでどうにかなるほど甘いものではないからです。逆に、劇的な効果をもたらす技術は、副作用も劇的ということも言えます。

むしろ、身近な植物にも意外な性質がある、それをこんな風にも応用できる、この研究はそういった発想のヒントにしていただきたいですね。

──ほかの技術との組み合わせもありえますか?

保湿剤を使って、より効果的に水分を供給するという手もあるでしょう。また、遺伝子組み換え技術と組み合わせるのも1つの考え方です。スプリンクラー用植物の遺伝子を組み換えることで、有害な物質は放出せず、水だけ供給するといったことができるようになるかもしれません。

研究者プロフィール

矢野勝也(やのかつや)

1967年大阪府生まれ。大阪府立大学農学部卒業後、同大学院修士課程を経て、名古屋大学大学院農学研究科博士課程を修了。専門は作物生態学で、主に植物の土壌資源獲得能を研究。灌漑手段としてhydraulic lift現象を活用する研究もそのひとつで、植物の新たな利用価値を発掘することにも関心がある。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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