発電する窓ガラスも夢じゃない「窒化ホウ素太陽電池」(2)
2008年9月26日
──太陽電池は半導体の一種ですよね。窒化ホウ素は絶縁体ということでしたが。
その通りです。窒化ホウ素の中を電子が流れることはとても不思議なことなんですよ。
シリコンで半導体を作る場合には、微量のホウ素やリンを添加することで電子が流れるようにします。これをドーピングというのですが、私たちの高密度窒化ホウ素も結晶ができる過程でドーピングされていることがわかりました。シリコン基板に含まれるケイ素が、窒化ホウ素に入ることで半導体としての性質を持つようになったのです。高密度窒化ホウ素の生成とドーピングが1つのプロセスで一気にできてしまったわけですね。
また、私たちの高密度窒化ホウ素を電子顕微鏡で拡大してみると、表面に円錐状のトゲが並んでいます。電圧をかけるとこの先端から電子が飛び出していることがわかり、(太陽電池以外にも)ディスプレイなどに応用できると考えています。
──今回の太陽電池はヘテロダイオードということですが、これはどういう意味なのでしょう?
太陽電池を作るには、p型半導体とn型半導体を合わせる「pn接合」が欠かせません。太陽電池に光が当たると、プラスとマイナスの電気が生まれます。この時、マイナスの電気(電子)はn型半導体の方へ、プラスの電気(正孔)はp型半導体へ集まります。p型、n型それぞれの半導体に電極をつなぐと電流が流れるというわけです。
今回私たちが試作した高密度窒化ホウ素の半導体はp型だけで、n型半導体としてはシリコンを用いています。違うタイプの半導体を組み合わせているので「ヘテロ」(異型)ということになります。
──片方がシリコンだと透明になりませんね。
はい。太陽電池としては機能しますが、透明ではありません。現在n型を作るための準備を進めているところです。すでに目処は立っていますので、近いうちにn型も作れるでしょう。
UVカットと発電機能を兼ね備えた窓ガラス
──窒化ホウ素太陽電池の変換効率はどれくらいでしょう?
現在のところ変換効率は2%で、シリコン太陽電池の18%に比べると劣ります。しかし、これは世界初の試作による最初のデータですから、今後の可能性は有望だと思います。例えば、変換効率を測定するために、本来はアルミの電極を蒸着すべきところを、今は単純にアルミ箔を貼っているだけなので、この辺りを工夫するだけでも効率は上がるはずです。また、電子デバイスとして幾何学的に最適な厚みについても、研究はまだまだこれからです。
──透明で丈夫、熱にも強い太陽電池ができたら、いろいろなことに応用できそうですね。
窓ガラスやサングラス、車のサンルーフとしても使えるでしょう。窒化ホウ素太陽電池では主に紫外線を使いますから、紫外線をカットしつつ発電も行える窓ガラスができそうです。
また、タンデム型太陽電池にも応用できると思います。シリコン太陽電池は紫外線領域での発電が得意ではありませんから、窒化ホウ素太陽電池を上に重ねて、全体の発電効率を上げることができるでしょう。
半導体としては最も頑強な物質が開発できたことになりますので、宇宙での発電等にも使えるのではないかと思っています。
──研究開発のロードマップはどうなっていますか?
n型半導体はおそらく来年あたりにできると思います。製品化には5年くらいはかかるのではないでしょうか。
高コストになる高温高圧環境を使う必要がなく、プラズマによる薄膜化のプロセスを使いますから、大量生産も行いやすいはずです。
研究者プロフィール
小松正二郎(こまつしょうじろう)
昭和56年3月、東京大学工学部金属材料学科卒業。昭和61年3月、東京大学工学系大学院博士課程修了。昭和61年7月、学術振興会特別研究員を経て、旧科学技術庁無機材質研究所。平成3〜4年、ペンシルバニア州立大学客員研究員。平成13年4月、無機材質研究所が独立行政法人物質・材料研究機構に改組。平成16年3月、紫外発光性新型BNの開発及びそのプロセス開発に対して「第二回応用物理学会プラズマエレクトロニクス賞」受賞。専攻は、プラズマ・レーザを用いた過激な非平衡系における未知の結晶形成の研究とその工学的応用。
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