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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

発電する窓ガラスも夢じゃない「窒化ホウ素太陽電池」(1)

2008年9月26日

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エネルギー問題が深刻になる中、太陽光発電にはいっそうの注目が集まっており、シリコン以外の太陽電池の研究開発も活発化している。2008年9月、物質・材料研究機構は「窒化ホウ素」を用いた世界初の「BN/Siヘテロダイオード太陽電池」の試作に成功。将来的には、透明な太陽電池も可能になるという。研究グループリーダーの小松正二郎博士に、この太陽電池がもたらす可能性をお聞きした。

丈夫、耐熱、透明と三拍子揃った「窒化ホウ素」

──窒化ホウ素は一般にあまりなじみがないと思いますが、どのような物質なのでしょう?

右にあるのが、試作された高密度窒化ホウ素の結晶(中央の四角い部分)。左の白い円盤は、通常の柔らかい窒化ホウ素だ

窒化ホウ素の前に、これと関係の深い炭素についてちょっと説明しましょう。鉛筆の芯などに使われるグラファイト(黒鉛・石墨)と宝石のダイアモンドが同じ炭素(C)だということはみなさんご存じだと思います。ダイアモンドは、高温高圧の環境で成長する炭素の結晶です。

一方、窒化ホウ素(BN)は、ホウ素(B)と窒素(N)の化合物です。元素周期表では炭素の前後にホウ素と窒素がありますが、窒化ホウ素と炭素は似通った性質を示すことが知られています。常圧で作られた窒化ホウ素は白く、グラファイトと同じように柔らかな物質です。ただし、グラファイトが電気を通すのに対し、窒化ホウ素は絶縁体で電気を通しません。

この窒化ホウ素の結晶を高温高圧の環境で成長させると、ダイアモンドと同じように、硬くて透明な物質(立方晶窒化ホウ素)になります。ダイアモンドに次ぐ硬度がありながら、燃えてしまうダイアモンドとは違って熱に強いという性質があるのです。

元素周期表において、ホウ素(B)と窒素(N)は、炭素(C)の前後に位置する

──すごい特性を備えた物質ですね。

確かにそうですね。1969年には米国のゼネラル・エレクトリック社がボラゾンという商品名で発売しています。立方晶窒化ホウ素の研究はその後も引き続き行われてきましたが、まだ広く使われるには至っていません。1つの理由として、結晶が成長するために高温高圧の環境を必要とし、特に電子デバイス等の大量生産には不向きだということが挙げられます。ホウ素や窒素自体はどこにでもある資源なのですが。

ところが近年、ダイアモンドについては、プラズマを利用することで1気圧以下の環境で薄膜を作れるようになってきました。

それならば、性質が似ている窒化ホウ素でもプラズマを使って同じように薄膜を作れるのではないか。そう考えて、多くの研究者がプラズマを使った窒化ホウ素生成に取り組んでいます。

プラズマとレーザーで窒化ホウ素の結晶を作る

高密度窒化ホウ素の実験装置のイメージ。上部で発生させたプラズマにレーザーを照射し、シリコン基板上に窒化ホウ素の薄膜を作る

──こちらの研究室でもプラズマを使っているのですか?

私たちの研究室では、プラズマとレーザーを組み合わせた方法で立方晶窒化ホウ素の生成にチャレンジしてきました。

アルゴンのプラズマの中に、ジボラン(B₂H₆)とアンモニア(NH₃)を入れると、含まれているホウ素(B)や窒素(N)がラジカル、要するに原子から電子が飛び出してバラバラになります。ホウ素と窒素は、装置内にあるシリコン基板にくっつき、結晶構造が成長していきます。

しかし、プラズマで分解しただけでは、窒化ホウ素はできてもダイアモンドのような立方晶窒化ホウ素にはなりません。何らかの形で活性化エネルギーを与えて、結合の形を変えてやる必要があるのです。私たちは、熱ではなく、レーザーという光の形で活性化エネルギーを与えることにしました。

すると、透明で硬く、さらに太陽電池の性質を持った立方晶窒化ホウ素が生成されたのです。詳しくいうと、私たちが今回作成した結晶は、結合構造はダイヤモンドと同じなのですが、結晶の周期性(結晶は3次元的な無限の繰り返し構造を持つ)がダイヤモンドより長く、SP3-結合性5H-BNという長い名前をつけています。柔らかいグラファイト的な窒化ホウ素と区別するため、高密度窒化ホウ素と呼んでいます。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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