竹の電気自動車が、京の街をはんなり走る (1)
2008年7月 4日
木や竹のおもちゃのような車、色鮮やかな友禅や漆で彩られた工芸品のような車…。京都大学がベンチャー企業と共同で開発している電気自動車「Kyoto-Car」は、工業製品なのに不思議なぬくもり感じさせる。プロジェクト代表の京都大学 松重和美副学長に、Kyoto-Carが目指すビジョンをうかがった。
ハイテクの中に「文化」を入れる
──木や竹でできた電気自動車は、かなりインパクトがありますね。そもそも、Kyoto-Carはどういうところから生まれてきたのですか?
100年前から作られている電気自動車ですが、リチウムイオンバッテリーの登場でパワーや稼働時間がずいぶん改善されました。都市部なら1回の充電で50kmも走れれば実用的になるでしょう。ガソリン価格の高騰や環境問題への関心が高まっていることもあり、今度こそ多くの人や企業が電気自動車に対して本気になってきたように思います。
とはいっても、京都でやるからには京都の特性を活かしたい。ハイテクの中に「心」や「文化」を入れて、「これなら買いたい」と思われるような車を作ろうと考えました。そのために、漆塗りや京友禅のデザイン、木や竹といった自然素材を取り入れています。
1200年に及ぶ京都の歴史の中では、さまざまな技術や人の出入りがありました。では、1200年続いているのは何かと考えてみると、それは一種の持続型社会であるということなのではないかと思います。小型の電気自動車なら路地にも入っていけますし、排気ガスも出ません。
──6月18日に公開された小型の木製電気自動車は、暖かみのあるデザインになっていますね。
そういうレトロな雰囲気をデザイナーに出してもらいました。このモデルは、ベースになる市販車に木製の外装をかぶせています。市販車の方ではバッテリーとして鉛電池を使っていますが、こちらはリチウムイオンとキャパシタ(電気二重層コンデンサ)を組み合わせています。キャパシタは急速な電気の出し入れができるため、ブレーキをかけた際に生じた電気を効率よく利用することが可能です。10分間充電すれば10kmは走り、速度は時速50kmまで出ます。
外装部分には竹の集積材を多く使っています。天井にはすだれのような内張がしてあり、暑い京都でも多少涼しい気分を味わえるようにしてみました。また、屋根の太陽光パネルで発電も可能です。
伝統文化の中に、最先端の技術を入れて性能を上げるというのがコンセプトですね。制作実費は約100万円です。
狭い路地でも横移動ですいすい進める
──6月12日には、漆塗りや京友禅などのデザインを施したコンセプトカーの1/10モデルを清水寺で発表されました。あちらは、横移動しているようでしたが。
漆塗りコンセプトカーでは、モーターをホイール内部に配置した、インホイールモーターを採用しています。4つのホイールには動力用、方向制御用にそれぞれ2つのモーターが入っており、横移動が可能です。清水寺でのデモンストレーションでは、自動制御で「京」という字の一筆書きを披露しました。実機でも、同様の構造になる予定です。京町屋といっしょに電気自動車を盛り上げていこうという話があるのですが、町屋は狭い道にあるので横移動できる車なら共生しやすいでしょう。ちなみに、コンセプトモデルをデザインしたのは、ロボットクリエイターで京大発ベンチャーの高橋智隆氏と、アテネ五輪シンクロ日本代表の水着をデザインしたジャパンスタイルシステムの川邊祐之亮氏です。
デザインも含めて実機がどういう形になるかはまだ完全には固まっていませんが、ベース車はできる限り安いものを使い、漆塗りなどの部分で付加価値を出したいと考えています。ハイブリッドでない純粋な電気自動車(ピュアEV)は仕組みが簡単ですから、基本的な仕様であれば200万円くらいに抑えることもできるでしょう。
──漆塗りの外装は、傷つきやすくないのですか?
漆の強度は高く、水にも強いのですが、なぜこれまで自動車の外装に使われなかったかというと光劣化してしまうからです。Kyoto-Carの外装にはMR漆という特殊な製法で作った漆を使います。MR漆は京都市産業技術研究所工業技術センターが開発したもので、耐光性が格段に向上しています。
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