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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

ネットワーク技術が実現するエコ物流 (2)

2008年6月17日

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ネットワーク研究から生まれた経路問い合わせシステム

──この研究を始めることになったのは、どういう経緯からでしょう?

僕はソフトウエア研究が専門で、このシステムも元々はネットワーク上の経路制御(ルーティング)のために研究していました。

インターネット上では、個々のパケットの宛先をルーターが解釈して転送していきます。この方法にはある経路が壊れたら別の経路を選択できるというメリットがありますが、ルーターが高価になってしまうという欠点があります。

そこで、多数のノードがある程度固定されている状態にある環境、例えば工場内のセンサーネットワークを安価に構築するための手法を考えたのです。複雑な経路制御をルーターにさせないためには、パケット自体に経路を書き込んでおけばいい。そうすれば、ルーターを安価にできますし、速度も期待できるでしょう。

もちろん、インターネットの備える耐障害性は犠牲にしないといけませんが、工場内のようにたいていの機材がきちんと動いていると期待できる環境なら、これも1つの解になり得ます。

ネットワークの世界では小分けしたデータをパケット(小荷物)というように、物流のアナロジーを使います。それなら逆に、ネットワークの技術を物流にも応用できるかもしれないと考えました。

──経路の問い合わせでは、どのような技術を使っているのですか?

プログラムの検証・解析手法を利用しています。荷主の求める集配条件をプログラムの仕様、登録されているトラック経路をプログラムの実装と見なすことで、トラック経路(実装)が集配条件(仕様)を満足しているかを調べられます。プログラムの実行時間を見積もるソフトウェア技術もありますから、それを使えば移動距離や時間を割り出すことも可能です。

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記述された集配条件から木構造を取り出して、トラック選択サーバーに登録されている運行情報と比較する。

──荷主や集配先は、集配条件を経路記述言語で書いて便を探すそうですが、難しくないのでしょうか?

このプログラムコードは人間が書くことは想定していません。現在GUIを備えたアプリケーションを開発しており、これで集配の図を描けば集配条件が出力されるようにする予定です。

また、クラウドコンピューティングのインフラのひとつであるGoogle App Engine上での実装も進んでおり、将来的にはネットワーク上のサービスとして提供することになりそうです。

──ネットワーク技術の研究者が、物流用システムを開発するというのは意外ですね。

僕はRFIDタグのISO規格委員も務めている関係で、物流業界や倉庫業界の方とお話する機会が多いのです。情報系と物流系の両方に関わり、業界事情がわかっていたからこういうことができたということはあります。

費用がかかりすぎるシステムは業界に受け入れられませんから、できる限り参加企業に負担をかけないようにしています。トラックにも新たな設備投資を行う必要はありません。

新聞販売やロボットカーへの応用も

──実証実験や導入状況はいかがでしょう?

このシステムの特許を出願したのが5月23日で、その日に報道発表も行ったところですから、まだまだこれからお話しを進めていこうというところです。ただし、すでにいろいろな方から引き合いをいただいています。大きな会社なら、事業所間を回る社内メールで利用できるでしょう。

ユニークなところでは、新聞販売会社も興味を示しているようですね。実は、物流で一番難しいのは新聞や雑誌などの情報を運ぶ場合です。新聞などを共同集配する場合、販売所やキオスクの開店時間はバラバラですし、かといって店の前に放り出しておくわけにもいきません。きちんと時間を合わせて、効率的に配達する必要があるのです。私の開発したシステムは、こういう用途にも適しています。

──この技術は物流以外にも応用できますか?

複数の場所を自由な順番で経由するなど、より柔軟な経路探索サービスを実現できるのではないでしょうか。また、ロボットカーにも応用できるかもしれません。ロボットカーというと乗用車を思い浮かべる方が多いのですが、僕は物流の方が適していると考えています。コンテナやパレットに経路情報を記録したタグを貼っておけば、自動的に輸送してくれる、そういうイメージですね。

研究者プロフィール

佐藤一郎(さとういちろう)

慶大電気工学科卒、同大計算機科学専攻後期博士課程修了、博士(工学)。国立情報学研究所・アーキテクチャ科学研究系・教授。専門はミドルウェアなどのシステムソフトウェア、ただし基本的には実装屋。平成18年度科学技術分野 文部科学大臣表彰 若手科学者賞他多数受賞。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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