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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

流出重油をどこまでも追いかけるロボットブイ (1)

2008年4月18日

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タンカーから流出した重油で真っ黒になった海鳥、廃棄するしかなくなった養殖ノリ、泳げなくなった海水浴場……。重油の流出事故は、経済にも生態系にも多大な被害をもたらす。その被害を最小限に食いとどめるために開発されているのが「浮流重油自動追従ブイ」。これはAUV(自律型無人探査機)と呼ばれる一種のロボットである。水中ロボットの開発に長年携わってきた大阪大学 加藤直三教授にお話をうかがった。

世界で頻発する重油流出事故

浮流重油自動追従ブイの実験機。全長は約2mほどになる。

──海上での重油流出は、大変な被害を及ぼすと聞いています。

日本における重油流出事故としては、1997年に日本海で起こったナホトカ号が最も衝撃的でした。この事件では6240klの重油が流出し、日本海沿岸に漂着したのです。回収には数ヶ月を要した上、作業に当たったボランティアのうち5人が亡くなりました。この事故をきっかけとして、IMO(国際海事機関)は、老朽船に対する監督強化、重油が漏れにくい二重船底への転換といった決定を行ったのです。

しかし、それで重油流出事故が起こらなくなったわけではありません。1999年にはフランスのエリカ号が沈没(重油11000t)、2000年にはシンガポールでタンカー座礁(原油7000t)、2002年にはスペインのプレスティージ号沈没(燃料油10000t以上)。2007年には、黒海ロシアタンカー事故(燃料油1300t)、韓国泰安タンカー事故(原油12547kl)、ノルウェースタットフィヨルド油田(原油3000t)という具合に、立て続けに起こっています。事故原因の多くはメインテナンス不良とヒューマンエラーです。

流出した重油は水と混じってエマルジョン化、要は粘っこい油になって回収が厄介になります。海岸に漂着すると、砂に染みこみ、何年も残留します。漁業や生態系の被害は甚大です。

──日本の事故対策はどうなっているのでしょう?

現在では、国土交通省の地方整備局が油回収船を所有しており、事故があったら回収船を急行させる体制になっています。また、港湾空港技術研究所が海岸に漂着した油を回収する機械を開発し、整備局の陸上基地にも配置されています。とはいっても、重油流出の被害を最小限に抑えるには、海上ですばやく回収することが重要なのです。

ところが、今のところ重油の位置をリアルタイムで常時追跡するシステムがありません。ヘリコプターから蛍光レーザーを海面に放射して夜間でも作業できるようにする仕組みはありますが、ヘリコプターだと24時間監視ができず、コストが高くなるという欠点があります。人工衛星では1日1回、多くても数回程度の撮影しかできず、常時監視というわけにはいきません。

海流や海底地形を考慮し、3次元的に計算を行うシミュレーションプログラムも開発していますが、風向きなどの海象は刻一刻と変化しますし、局所的な流れはなかなか計算しきれません。やはり、現場からのリアルタイムデータがないと精度は上がらないのです。

──そのために重油の位置を知らせるブイが必要になると。

はい。想定シナリオの1つとしては、タンカーへの搭載を考えています。もし重油がタンカーから流出したらブイが自動的に投下され、地上局に状況を伝えるのです。もっとも、タンカーへの搭載を義務づけるには国際的なルール作りが必要になりますから、最初は油回収船に搭載するということになるでしょう。

自動追従の仕組み。周りに重油があるかどうかを判定し、なければ沈降する。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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