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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

巨大風車の船団が大海原を行く 3/4

2008年3月21日

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超巨大な浮体は現在の技術で建造できるのか?

──材質や構造など、浮体自体の建設は現在の技術で可能なのでしょうか?

材料などは現在の船舶に使われているもので建造可能です。現在の試算だとこの洋上風力発電のEPRは16、今後の開発目標を19としています。ちなみに、原子力のEPRは24、石油火力が21、石炭火力が17、水力が50、太陽光が5~9というところです。EPRの計算には設備のコストも含まれており、洋上風力発電の場合ですと浮体の寿命がEPRに大きく影響します。そのため、途中のメンテナンスは必要ですが、100年は使える浮体が求められます。

──100年も保つものなのですか?

心配になりますよね(笑)。一番の課題は波による金属疲労ですが、シミュレーションではその問題はクリアできそうです。従来のタンカーは曲がらない剛体として設計されていましたが、メガフロートの滑走路では弾性体として設計する手法が開発されており、それを応用しています。最新の設計モデルは水平に置かれた4本の長い柱(ハル)で構成されており、上の2本は桟で結ばれます。下の柱もつなぐと強度は稼げるのですが、走るための障害になるので上だけを結んでいます。

また、浮体に使った鋼材は再利用できるので、そういったことも考慮すればハードルはかなり低くなるでしょう。

120mの風車が回る光景

──風車はどれくらいの大きさなのですか?

1つの風車の直径は120mで、それぞれ5MWの出力を想定しています。ヨーロッパではすでに5MWの風車が実用化されているので、技術的にはそれほど問題はありません。浮体の揺れも大きな影響はなさそうで、課題があるとすれば塩害対策くらいで、技術的には十分手の届くところにあります。

もちろん、可動部のある風車は100年も保ちませんから、20年くらいで取り替えるように設計しています。

──風車の発電量はどのくらいになりそうですか?

1つの浮体に5MWの風車を11基載せますから、理論的な最大値は55MW。実際はその半分で25MWというところでしょうね。原子力発電所は1基で100~125MWなので、4~5隻の浮体で1つの原子力発電所相当になります。現在、55基約5000万kWの原子力発電所で日本の電力需要の3割強を担っていますから、洋上風力発電ですべての電力需要をまかなおうとすれば、6000隻が必要という計算です。この浮体は1隻だけで運用するのではなく、相当数が必要になります。実際に建造する場合には、量産効果が効いて、1隻当たりの建造費は低く抑えられるでしょう。

──浮体建造時にはかなりCO2を排出することになるのでは?

運航時にはほとんどCO2を排出しませんが、確かに建造時にはCO2も発生します。1つの浮体を作るのに必要なエネルギーを、風車で発電した電力で返して行くとすると、6~7年掛かると見積もられています。CO2でみると、石炭火力発電所を同じ年間発電量の洋上風力発電に置き換えると、もう少し短く5~6年で製造に伴い発生したCO2を回収できて、その後は寿命の続く間CO2削減効果が得られることになります。

風車が3つの模型。上部にある2本の柱は、桟で結ばれている。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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