巨大風車の船団が大海原を行く 1/4
2008年3月21日
風車といえば、山間部などにひっそりと設置されているイメージが浮かぶ。ところが、国立環境研究所が研究している「セイリング型洋上風力発電」は、とにかくド派手である。なにせ、長さが2km弱もある浮体構造の上に、直径120mの風車を11基も並べようというのだ。しかも、この浮体が船団を組んで、ヨットのように海上を自在に走り回るのだという。夢物語にも思えるこの計画は、実現可能か? プロジェクトをとりまとめている、国立環境研究所の植弘崇嗣博士に、詳細をうかがった。
巨大風車を並べて洋上風力発電を行う壮大なプロジェクト
──巨大な風車を洋上に並べて風力発電を行うというのは、何とも壮大な計画ですね。いったいどういう経緯でこのような研究が始まったのですか?
2002年に日本のエネルギー政策が見直され、経済産業省と環境省が共同でエネルギー特別会計の歳出・歳入のグリーン化に取り組むことになりました。2003年度にはエネルギー特別会計の一部が環境省に移され、CO2の排出抑制に役立つ施策を展開することになったのです。国立環境研究所の研究はそれまで現象解明と影響評価が中心でしたが、この政策に沿って持続可能なエネルギーに係る技術開発研究も進めることになりました。
──なぜ洋上に発電設備を?
持続可能なエネルギー源として一番望ましいのは、太陽です。太陽エネルギーを利用する方法としては太陽光パネルや風車がありますが、いずれも日本では欧米ほど普及していなかったため、解決策を検討する数名の組織を2003年に立ち上げました。
地球上に降り注いでいる太陽エネルギーを全部集めることができれば、膨大なエネルギーになります。しかし、面積当たりでは火力発電所や原子力発電所より、ずっと少ないエネルギーしか得られません。十分なエネルギーを得ようとすると、広大な面積が必要になります。
日本の国土は狭いのですが、海に目を転じると状況は変わってきます。実は日本の排他的経済水域(EEZ(Exclusive Economic Zone):経済的な主権が及ぶ水域)は、世界第6位の広さなんですよ。広大な海なら、面積当たりのエネルギー量が低い太陽エネルギーも使いものになるのではないかと考えました。
──発電設備を洋上に直接建てるのは難しかったのでしょうか?
日本の海は遠浅ではないため、欧州のように大規模な海底に基礎を持つ着底型洋上風力発電を行うのが難しいのです。そうなると、海に浮かぶ浮体ということになります。浮体には海底に錨で固定する係留タイプと、固定しない非係留タイプがあり、係留タイプはブラジル沖の油田などで使われています。日本の周りでは海は急に深くなっていて、あっという間に1000mを超えて3000mより深くなってしまいます。ところが3000mクラスの係留タイプとなると大変なコストがかかるんですね。密度の高いエネルギー源である石油をくみ上げるからこそ、高いコストをペイできるのです。面密度の小さい太陽エネルギーを対象とすると、経済的にもエネルギー的にも厳しいものがあります。
それならば「ひょっこりひょうたん島」ではないですが(笑)、風がない時はあるところに移動できる、非係留タイプのメリットが大きいのではないかということになりました。
──太陽光パネルではなく、風車による風力発電を選んだわけは何でしょう?
システムが生み出すエネルギーを、システムの構築・稼働に消費するエネルギーで割った値を「EPR」(エネルギー収支比)といいます。2003年の段階では太陽光発電のEPRは風力発電よりもずっと低かったのです。現在では、太陽光パネルも改良されてEPRは風力発電にかなり近づいてきましたが、結果として風力発電に特化してよかったと思っています。
──なぜですか?
風車を乗せる浮体と、太陽光パネルを乗せる浮体は設計思想が異なってくるからです。風車には風が必要なので結果として波の高い海域を走らなければならず、浮体も頑丈でなければなりません。太陽光パネルの場合は、凪いでいる海域でよいので浮体はそれほど頑丈でなくともよいのですが、面積が必要になります。風車と太陽光パネルの両方を搭載して、両方の性能を十分に発揮できる浮体構造を考えても答えは出なかったかもしれません。
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