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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

廃熱を音に変えてモノを冷やす、不思議な熱音響冷却 2/2

2008年2月15日

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捨てる熱を活用して、エネルギーの無駄をなくす

──エネルギー効率はどれくらいなのでしょうか?

渡辺:廃熱のエネルギーのうち、だいたい5~10%が冷却のために再利用できることになります。

エネルギー効率が低いように思われるかもしれませんが、現在使われているほとんどの設備や機械は廃熱を捨てるために、別のエネルギーをつぎ込む二重投資をしています。室外機を冷やすために別のクーラーを使っているようなものです。捨てるだけの熱を、冷却に活用できれば無駄なエネルギー消費を抑えられます。もちろん、この装置を駆動するためのエネルギーもまったくゼロというわけにはいきませんが。

坂本:体積を持った空間を冷やそうとすれば、廃熱を装置に取り込むための仕組みが必要になります。ファンを回して熱を装置に送り込むのであれば、ファンを駆動するためのエネルギーが必要になるということです。

渡辺:この装置が優れている点は、まず元々捨てられていた熱をエネルギー源としていること。そして、非常に簡単な仕組みになっているため、製造コストも低く抑えられます。さらに、単純な構造ですから、メンテナンスフリーで動作寿命も長いという利点もあります。エネルギー効率が5%や10%とはいっても、この装置を使うだけでどれだけ快適に暮らせることでしょう。

住宅に応用して、太陽熱が当たっている部分の下にある部屋を冷やせば、その部屋にはクーラーが不要になります。ファンのような装置は必要になるでしょうけどね。

同志社大学 工学部電子工学科 超音波エレクトロニクス研究室 渡辺好章教授

同志社大学 工学部 坂本眞一特別研究員

──廃熱の温度が変動する場合でも使えるのですか?

渡辺:電気であれば、コンデンサーを使って調整を行いますね。同じようにして、蓄熱装置を途中に入れておき、必要に応じて熱を供給すればよいわけです。100度までの熱なら水も蓄熱材になります。

──装置はどの程度まで小型化できるのでしょうか?

坂本:断面積がA4サイズの装置で、氷点下に冷却できる実験装置が完成しています。現在は、(断面積が)タバコの箱サイズのものを開発中です。

──装置から音は漏れないのですか? 無音ではありませんよね。

坂本:音自体が出てくることはありませんが、振動は少しあります。揺れていない部分を固定すれば、ほとんど音は聞こえません。

──どのようなものに応用できるのでしょうか? エアコンや冷蔵庫などですか?

坂本:そこまで行くのは、もうちょっと先のフェーズですね。エアコンや冷蔵庫は、長い技術的な積み重ねの上に成り立っており、エネルギー効率は相当なレベルにまで達しています。我々の技術がそれらに取って代わるものかというと、それはちょっと違います。

渡辺:例えば、自動車でいえばスポット的に冷やさなければならないところ、逆に暖めなければいけないところがあります。我々の技術を使えば、追加のエネルギーなしに冷やしたり暖めたりできます。システム全体としてエネルギーの使用量を下げられるわけです。

坂本:コンピュータ関連では、サーバーの冷却に応用できるでしょう。日本の場合、土地代の高いところにデータセンターを建設しますから、サーバーも密集して配置されており、冷房のコストは大変なものになっています。我々の技術で冷房代が不要になるとはいいませんが、何%かはカットできるでしょう。

渡辺:実験装置では、室温からマイナス20度まで冷却し、そのまま長時間運転することに成功しています。幅広い分野で使えると思いますよ。

廃熱を取り込む1番目のスタック。300℃の熱を入れると、2番目のスタック上部は5℃くらいまで急速に冷えていった。

2008年度中の実用化にも目処が立ってきた

──以前の新聞記事では、2008年度中に実用化と書かれていましたが、状況はいかがでしょう?

渡辺:特定の企業におけるスポット的な利用であれば、そのレベルに達しています。多数の企業に興味を持っていただき、お話しをさせていただいております。また、2008年はじめに同大学内に熱音響研究センターを設置して、そこを中心に技術コンソーシアムを立ち上げようとしているところです。熱音響冷却システムのようにエネルギーを効率的に活用する技術は、多くの先進国で研究されています。海外で先に商用化されてしまうと、日本はその技術を海外から購入しなければなりません。こういう技術は、日本企業が主導権を握り、デファクトスタンダードを作ってもらいたいものです。

──それにしても、これほど単純な装置で冷却が起こるというのは、原理をお聞きしても本当に不思議です。

坂本:熱音響現象を冷却などに応用できる可能性については、これまでにもいろんな研究者が言及してきましたが、なかなか実現できなかったのです。最初にご紹介したレイケ管を作るのは簡単なのですが、これをループ状にするのが最初の難関です。さまざまな企業の技術者がいらして実験装置を見るとすぐできると思われるようなのですが、試作しても稼働させることはまずできません。装置の部品点数は少ないのですが、音のタイミング、空間的な位置、スタックで使われるハニカムセラミックスの穴の大きさ、気圧、気体の種類等々、あらゆる要素を考慮しなければならないのです。もっとも、実験ではヘリウムなども混ぜたり、気圧を高めたりしますが、実用化する装置では空気を大気圧で用いることを目標にしています。

従来、我々研究者の間でも熱と音は切り分けて考えられてきました。つい4、5年前までは、音響シミュレーションを行う際も熱の影響をほとんど考慮していなかったほどです。熱音響現象が知られてきて、学問的な解釈もだいぶ変わってきましたね。

──坂本先生は、どうして熱音響の研究を始められたのですか?

坂本:私はこの渡辺研究室の修士課程を修了し、東レに勤めていました。研究職を続けるならやはり博士号が必要だということで、週末だけここで研究を行い博士論文を書くことにしました。ある時、レイケ管やループ管を見せてもらったのですが、そのインパクトは大きかったですよ。200年も前からあるこんな単純な装置で、これだけのパワーが出せるということに驚きましたね。結局、東レを退職し、この研究に専念することになりました。

──現在進めている研究について教えてください。

坂本:廃熱を太陽光に置き換え、冷却に使う研究を行っています。元々は、砂漠に設置する薬品用冷蔵庫を作ろうと考えたのです。これまでの冷蔵庫を動かすには、電気が必要で、その電気を作る発電機には何らかの回転体が必要になります。ところが、砂漠だと回転体はすぐに故障して止まってしまうんですね。そこで、熱音響現象を利用し、回転体なしで冷却できる装置を作りました。気温が30度の時に、マイナス4.5度まで冷やすことができています。簡単な仕組みですが、2年くらいかかりようやくここまで来ました。

渡辺好章(わたなべよしあき)

1974年同志社大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了。1992年同志社大学教授。
超音波エレクトロニクス、非線形音響の工学的応用、生物ソナー等の研究に従事。工学博士。文部科学省知的クラスター創成事業ヒューマンエルキューブ研究統括、文部科学省現代的教育ニーズ取組み支援プログラム(現代GP)取組み責任者などを歴任し、現在、日本海洋工学会理事、同志社大学熱音響研究センター長等。

坂本眞一(さかもとしんいち)

1999年同志社大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程(前期課程)修了。2005年同志社大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程(後期課程)修了、博士(工学)取得。2005年4月~現在、同志社大学特別研究員、熱音響システム実用化についての研究に従事。2008年2月~現在、同志社大学熱音響研究センター幹事。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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